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AIを活用した有機-無機ハイブリッド材料開発 ~マテリアルズインフォマティクスによる新規光半導体の探索~

 関西学院大学(関学大)と大阪大学(阪大)は2021年9月3日,関学大 理学部の田中大輔教授らと阪大大学院工学研究科の佐伯昭紀教授らの研究グループが,マテリアルズインフォマティクスの手法を活用することで,配位高分子と呼ばれる有機-無機複合材料の効率的な合成条件探索法を開発することに成功し,合成した配位高分子が電子と正孔の両方を輸送する両極性を有し,光を照射することで電気を流す光電導特性を発現することを明らかにした,と発表した.本研究は,JST 戦略的創造研究推進事業さきがけの支援により行われ,成果はドイツの総合化学誌Angewandte Chemie International Editionに 掲載された(注).

 金属イオンと有機配位子から構成される配位高分子は,電気伝導性などの無機物の性質と可撓性・吸着などの有機物の性質を併せ持つ新材料として注目され,触媒や,光電変換などに向けて材料開発が進められている.しかしながら,優れた電気伝導特性を示す配位高分子の報告例は少なく,配位元素に硫黄を用いると電気伝導性が向上することは知られていても,硫黄と金属の高い反応性は,結晶性の配位高分子を合成することを難しくしていた.これに対し,本研究は人工知能(AI)の一種である機械学習を利用したマテリアルズインフォマティクスの手法を用い,硫黄を配位元素に用いた新規の半導体配位高分子の合成に成功した.

 まず関学大理学部化学科の田中教授らは,様々な反応条件(温度,試薬の濃度,溶媒の種類,反応時間,添加物など)で銀イオンと含硫黄有機配位子 H3ttc(トリチオシアヌル酸)とを反応させて,結晶性配位高分子の合成を試みた.しかし,100 通り以上の反応条件で合成実験を行ったが,全て失敗に終わった.そこで,同大学工学部情報工学課程の猪口明博教授との共同研究により,AI の一種である機械学習の活用を試みた.失敗した実験で得られた粉末試料の X 線回折データをクラスタリング解析と呼ばれる教師なし学習の手法で自動分類し,得られた分類結果と合成実験条件の関係をランダムフォレスト及び決定木と呼ばれる教師あり学習の手法により解析した.その結果,反応温度と反応系中の水素イオン濃度が重要であることが明らかとなり,3種類の新規配位高分子を合成する最適な実験条件を見出すことに成功した.

 合成した配位高分子は,阪大の佐伯教授らが時間分解マイクロ波伝導度法により評価し,3種類の中でAg2Httc の組成を持つ KGF-6 と命名した新物質が,優れた光電導特性(移動度1.6 × 10-4 cm2 V-1 s-1)を示すことを明らかにした.さらに,この物質のバンド構造を,第一原理計算により評価し,AgS からなる無機構造ネットワークが正の電荷(正孔)を流し,ttc の窒素と炭素からなる有機分子部位が負の電荷(電子)を流す,相分離構造を取っていることが,優れた光電導特性の由来であることが分かった.

 本研究は,新物質合成条件探索に,マテリアルズインフォマティクスの手法が極めて有用であることを示し,環境エネルギー問題等の諸課題を解決する新材料の開発が期待される.

(注)Takuma Wakiya, Yoshinobu Kamakura, Hiroki Shibahara, Kazuyoshi Ogasawara, Akinori Saeki, Ryosuke Nishikubo, Akihiro Inokuchi, Hirofumi Yoshikawa, and Daisuke Tanaka, "Machine-Learning-Assisted Selective Synthesis of Semiconductive Silver Thiolate Coordination Polymer with Segregated Paths for Holes and Electrons", Angewandte Chemie International Edition, Accepted Articles, DOI: 10.1002/anie.202110629; First published: 24 August 2021