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グラフェン上での化学反応に基づく極微量化学物質の検出に成功 ~グラフェン電界効果トランジスタを利用した電気的な新奇検出原理を実証~

 東京農工大学は2021年9月9日,同大学大学院 生物システム応用科学府 食料エネルギーシステム科学専攻一貫制博士課程の坂本 優莉さん,同大学院 先端物理工学部門の生田 昂助教および前橋 兼三教授が,グラフェン電界効果トランジスタ上で特定の分子間で起こる化学反応を再現することにより,悪臭原因物質となるメタンチオールの極微量濃度での検出に成功した,と発表した.本研究は,独立行政法人 日本学術振興会(JSPS)の科研費,公益財団法人 立石科学技術振興財団の研究助成,および独立行政法人 環境再生保全機構の環境研究総合推進費の助成を受けて行われ,成果は米国化学会刊行のACS Applied Materials & Interfaces誌にオンライン掲載された(注).

 有害化学物質検知や医療診断などに向けて分子検出用のセンサ開発が盛んである.ゲート領域表面に存在する物質により電導性が変化するグラフェン電界効果トランジスタ(FET)は,キャリアの移動速度が速く,検出感度が高い次世代センサ材料として注目されているが,これまでの分子認識はターゲット分子のレセプター分子への吸着を利用したもので,極微量の分子検出には適したものではなかった.本研究で,研究グループは,レセプターへの吸着に代わり共有結合によるターゲット分子の捕捉に注目し,チオール-エン反応(チオール基と炭素-炭素二重結合の特異的反応)を利用した分子検出を試みた.実験では,分子内に炭素-炭素二重結合を有するN-(9-Acridinyl)maleimide(NAM)をレセプターとしてグラフェン表面を修飾したFETが作成された.NAMはπ電子の相互作用でグラフェンに固定され,グラフェン表面のNAM分子密度は0.5±0.1個/nm2である.このFETを室温で極微量のメタンチオール(MeSH)を含む窒素ガスに曝露してセンサの応答性を評価した.FET上でのMeSHとNAMの反応は紫外線を照射したときにのみ生じる.FETが濃度10ppbのMeSHに曝された状態で紫外線を照射するとFETの伝達特性が変化し,ドレイン電流が極小になるバックゲート電圧から求められるディラックポイント電圧は,7Vから5Vへ2V低下した.一方,ターゲット分子をMeSHから別の物質に変えるとディラックポイント電圧の変化は小さく,5000ppbの酢酸で0.7V低下,1000ppbのエタノールと10000ppbのメタノールではそれぞれ0.4Vと0.6V上昇した.これにより本手法が10ppbという極微量のMeSH検出に高い選択性を有することが示された.また,本手法は,チオールの検知に紫外線照射が必要なので,検出のタイミングを外部から紫外線を照射することで任意に制御可能という特徴も有している.

 開発されたセンサは,食品腐敗のリアルタイム検知につながるとともに,この手法は,チオール-エン反応以外にも多くの特異的な化学反応に展開できる可能性があり,センサデバイスの高感度化や特異性向上への寄与が期待される.研究グループは,本手法を特許出願し,今後も,持続可能な社会の実現に重要となるセンサデバイスの開発を継続するという.

(注)Yuri Sakamoto, Takashi Ikuta, and Kenzo Maehashi, "Electrical Detection of Molecular Trans-formations Associated with Chemical Reactions Using Graphene Devices", ACS Applied Materials & In-terfaces, 2021, DOI: 10.1021/acsami.1c09985; Publication Date: September 8, 2021