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希土類鉄ガーネットの傾斜歪み構造において誘電分極と磁化の共存を実現 ~宝石を磁気と電気のメモリ材料へ変身させる~

 東京大学(東大)は2021年9月17日,東大 大学院工学系研究科の山原 弘靖 助教ら,東大 総合研究機構の幾原 雄一 教授らが,東北大学電気通信研究所の長 康雄 教授と共同で,ナノスケールの傾斜歪みを有する希土類鉄ガーネット薄膜の作製に成功し,誘電分極と磁化の共存を観測した,と発表した.本研究は,独立行政法人 日本学術振興会の科学研究費,公益財団法人村田学術振興財団,文部科学省ナノテクノロジープラットフォーム等の支援を受け,成果は英国学術誌Communications Materialsで公開された(注).

 磁気メモリは磁性体の磁気残留分極(磁化),誘電体メモリは電気残留分極(誘電分極)の向きをメモリ要素とし,n個のメモリは2nの情報を記憶する.双方の残留分極を持つ物質があれば記憶できる情報量は4nになる.一方,強磁性類似のフェリ磁性を示すフェライトには,1月の誕生石として知られる宝石:ガーネットの結晶構造を持つ希土類鉄ガーネットがあり,化学式はR3Fe5O12(RIG:Rは希土類元素,IGはIron Garnet)で表わされ,フェリ磁性絶縁体(常誘電体)である.RIGは巨大な磁気光学効果を示すため光通信部品の光アイソレータに使用され,スピン波伝搬の減衰係数が小さいため,超低消費エネルギー情報伝達媒体への応用が期待される.しかし,結晶構造が中心対称性をもつ立方晶であるため誘電分極を生じさせることはできない.一方,誘電体は,傾斜歪みなどの不均一な歪み分布によって誘電分極が発生するフレクソエレクトリック効果を示す.そこで,本研究グループは,格子不整合の基板上にRIG薄膜を成長させて,フレクソエレクトリック効果を誘起させることを試みた.

 基板にガドリウムガリウムガーネット(Gd3Ga5O12, GGG)を用い,パルスレーザー堆積法によりサマリウム鉄ガーネット(Sm3Fe5O12,SmIG)単結晶薄膜を成長させた.この組み合わせでは1.2%の格子不整合が存在し,転位が発生する臨界膜厚は60nmと見積もられた.成長した薄膜の結晶構造解析を行うと,基板からこの膜厚以下の領域では均一に格子歪みを受けた正方晶,膜厚が十分に厚い層では格子緩和した立方晶が存在することが分かった.さらに原子分解能を有する走査型透過電子顕微鏡によって,臨界膜厚付近の正方晶と立方晶の境では15nmの厚みにわたって,傾斜歪みが存在することが明らかになった.

 次いで,走査型プローブ顕微鏡の一種で,非線形誘電率の空間分布を測定できる非線形誘電率顕微鏡によって,平均径約30nmの負に誘電分極したナノドメインの存在が傾斜歪み層に観察された.さらにX線磁気円二色性分光によって,正方晶,傾斜歪み,立方晶の各層はいずれも磁気ヒステリシスを示し,正方晶,立方晶の層では保磁場が0.02Tであったのに対して,傾斜歪み層では0.11Tという非常に大きい保磁場を示すことが明らかとなった.格子欠陥の存在が磁気ドメインのピニングサイトとして働くことによると考えられ,傾斜歪み層から見積もられる磁気モーメントは0.98μB/FeのSmIGの理論値に近い値が得られた.

 本研究は,希土類鉄ガーネットに傾斜歪み構造を導入することにより磁化と誘電分極を共存させられることを明らかにした.新機能材料の創成に新たな道の開かれることを期待している.

(注)H. Yamahara, B. Feng, M. Seki, M. Adachi, Md S. Sarker, T. Takeda, M. Kobayashi, R. Ishikawa, Y. Ikuhara, Y. Cho, and H. Tabata, "Flexoelectric Nanodomains in Rare-Earth Iron Garnet Thin Films under Strain Gradient", Communications Materials, Vol. 2, Article number: 95 (2021), DOI: 10.1038/s43246-021-00199-y; Published: 16 September 2021