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酸化グラフェンによる新型コロナウイルスの抑制 ~炭素材料からなる抗ウイルス製品開発に期待~

 熊本大学は2021年10月19日,同大学大学院先端科学研究部の速水 真也 教授,同大学院自然科学教育部 博士後期課程2年の福田 将大 大学院生,同ヒトレトロウイルス学共同研究センターの池田 輝政 准教授,同大学院生命科学研究部の福田 孝一 教授,同産業ナノマテリアル研究所のMd. Saidul Islam特任助教らの研究グループが,新型コロナウイルスに対する酸化グラフェンの高い吸着力と抗ウイルス効果を発見し,ウイルス不活性化のメカニズムを実験的に明らかにしたことを発表した.本研究成果は ,学術雑誌ACS Applied Nano Materialsにオンライン公開され(注),本学術論文は同雑誌のSupplementary Coverに選出された.なお,本研究は,文部科学省 科学研究費補助金,独立行政法人 日本学術振興会 卓越研究員事業,国立研究開発法人 科学技術振興機構(J S T) 研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP),熊本大学COVID-19研究プロジェクト(アマビエ研究推進事業)などの支援を受けて行われた.

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は,現在,全世界で猛威を振るい,これによる感染症(COVID-19)は我々人類の脅威となっている.感染拡大の防止あるいは緩和策として,例えば,日常生活で使用するフェイスマスクなどの新型コロナウイルス対策製品の開発が強く要望され,ウイルス不活性化機構の解明や優れた抗ウイルス材料の開発が求められてきた.そうした中で,ナノマテリアルは,その大きい比表面積とユニー クな化学的・物理的特性により注目されている.中でも酸化グラフェンは,容易かつ安価に製造することができ,人体への毒性が低いため,次世代の抗ウイルス材料として有望視されている.

 本研究では,酸化グラフェン(GO)の新型コロナウイルスに対する抑制活性の評価と,その作用の仕組みを解明した. 抗ウイルス活性の評価では,リアルタイムのRT-PCR法を用いた.GO分散液(100μg/mL)に ウイルスを混ぜると,1分の培養でウイルスの感染性を50 %,60分で98 %にまで減少させることが分かった.さらに感染能を評価するプラークアッセイ法を用い,寒天などでウイルスが広がらないようにして培養し,ウイルスによる寒点表面の点状の細胞変性(プラーク)を数えることでもGO分散液の抗ウイルス活性効果を確認した.

 続いて,GOによる抗ウイルス活性の作用の仕組み解明のため,透過電子顕微鏡 (TEM)による観察を行った.+に荷電したGOに-電荷をもつスパイクタンパク質で覆われたウイルスが吸着しスパイクタンパク質を喪失している様が観察され,更に分解分析の結果ウイルス内部のヌクレオカプシドタンパク質の量も減少していることが分かった.すなわち,GOは新型コロナウイルスを吸着し,分解していることが分かった.

 酸化グラフェンは,コーティングされたマスクやフィルターへの応用など,さまざまな製品に抗ウイルス性を付与することが望める.今後,酸化グラフェンを用いた不織布やフィルターが開発され,With/Postコロナ社会の基盤となる抗ウイルス製品への展開が期待される.

(注)Masahiro Fukuda, M. Saidul Islam, Ryo Shimizu, Hesham Nassar, Nurun Nahar Rabin, Yukie Takahashi, Yoshihiro Sekine, Leonard F. Lindoy, Takaichi Fukuda, Terumasa Ikeda, and Shinya Hayami, "Lethal Interactions of SARS-CoV-2 with Graphene Oxide: Implications for COVID-19 Treat-ment",  ACS Applied Nano Materials, doi: 10.1021/acsanm.1c02446; Publication Date: October 14, 2021