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測定・評価

ナノスケールにおける有機分子の熱伝導特性の可視化に成功 ~光・電子デバイス等の高寿命化・高機能化への寄与に期待~

 東京工業大学は2021年11月18日,同大学理学院 化学系の藤井 慎太郎 特任准教授,西野 智昭 准教授,科学技術創成研究院の庄子 良晃 准教授,福島 孝典 教授らの研究グループが,有機分子薄膜のナノスケール領域での熱伝導特性を走査型サーマル顕微鏡(Scanning Thermal Microscopy : SThM)により可視化して画像化した,と発表した.本研究は,国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業(CREST)「ナノスケール・サーマルマネージメント基板技術の創出」の一環として行われ,成果は米国化学会誌Journal of the American Chemical Societyにオンライン掲載された(注).

 半導体回路のナノメートルスケールに至る微細化に伴い,熱の発生や伝熱挙動もナノメートルスケールでの理解が求められている.そのためには,ナノメートルサイズでの熱の流れの把握が重要で,微小空間での温度測定が必要であるが,柔らかい有機分子からなる単分子膜,薄膜などのナノスケールにおける熱伝導特性の解明は未開拓であった.研究グループは,自己組織化で作成した表面に縞状の微小パターンを持つ有機単分子膜を試料とし,表面の伝熱特性をSThMにより可視化することを試みた.この自己組織化膜は,直鎖のC18分子(n-hexadecanethiol),直鎖のC4分子(n-butanethiol)およびベンゼン環(benzenethiol)を硫黄原子で植え付けるように,金(Au)の(111)面に吸着させた単分子膜である.C18分子は基材から長く立ち上がるが,C4分子とベンゼン環の立ち上がりは低い.これら3種の分子から2種ずつを選んで交互の縞模様となるように吸着させた3つの膜が作られた.SThMはプローブ先端の発熱部から試料への伝熱による試料表面の温度変化をプローブ先端の温度センサーで検出して試料表面の伝熱特性を計測する.伝熱特性は分子の種類により異なるので,SThMで観察すると縞模様の吸着に対応した縞状パターンが観察される筈である.ところが,プローブを膜に接触させる接触モードで計測を試みても,温度分布は測定されたが縞状パターンまでは検出できないこともあった.これは接触モードでは,分子の立ち上がり高さの違いが大きいと,プローブの接触圧がプローブから膜分子への熱伝導に影響を及ぼすためである.つぎにプローブを膜から数百ナノメートル隔てて非接触で走査したところ,接触モードより高解像度で縞状パターンを検出することができた.非接触モードで熱放散を輻射のみとすることで,熱輸送が単分子膜を構成する分子の高さ(立ち上がり)に応じて変化するためである.これにより,SThMの接触モードと非接触モードを併用することで,有機分子薄膜の温度分布と表面形態の観察が可能になった.このような有機分子薄膜のナノスケール伝熱特性観察は,プローブの荷重が掛かって試料が変形する原子間力顕微鏡(AFM)では難しい.

 研究グループは,本研究の成果が,これまで未開拓であったナノスケールにおける熱の振る舞いの本質的な理解とともに,デバイスの高機能化.高性能化を可能にする熱マネージメント材料の開発につながることを期待している.

(注)Shintaro Fujii, Yoshiaki Shoji, Takanori Fukushima, and Tomoaki Nishino, "Visualization of Thermal Transport Properties of Self-Assembled Monolayers on Au(111) by Contact and Noncontact Scanning Thermal Microscopy", Journal of the American Chemical Society, 2021, Vol. 143, No. 44, pp. 18777-18783, DOI: 10.1021/jacs.1c09757; Publication Date: October 29, 2021