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金属と絶縁体を重ねて熱電変換電圧を10倍に増大 ~熱電変換材料の性能向上に向けた新たな指針~

 東京工業大学は2021年11月29日,同大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所の片瀬貴義准教授らの研究グループが,電気を良く通す酸化物のLaNiO3(ニッケル酸ランタン)を,電気を通さない酸化物のLaAlO3(アルミン酸ランタン)で人工的に挟み込むことによって,熱を電気に変える熱電変換の起電力を10倍に増大させることに成功したと発表した.本研究は,国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業 さきがけの助成を受け,成果はNano Letters誌に掲載された(注).

 熱電変換材料は,環境中の廃熱を電力に変えて再利用する「エナジーハーベスティング」技術への応用が期待され,また,上記とは逆に,電気を流すと冷却できる性質も持っており,環境負荷の大きいフロンガスを必要としない冷却機器としての利用価値が高まっている.しかし,既存の熱電変換材料は,一般に高温で高い性能を発現しやすいという性質があり,室温から低温の領域での変換性能は低いという問題があり,この分野における新しい熱電変換材料の設計指針が求められていた.材料の熱電変換性能は,1℃あたりの温度差で得られる熱起電力であるゼーベク係数Sで評価される.この研究グループは,材料の温度差で,高温から低温に流れるフォノンが電子を引っ張り,起電力を発生させる「フォノンドラッグ効果」という特殊な現象を利用し,Sを上げることを目指した.「フォノンドラッグ効果」は,低温でのゼーベック係数を増大させる一つの方法として知られている.しかし,既存の熱電変換材料で,フォノンドラッグ効果を示す材料はほとんど無く,Sを高めるためにフォノンドラッグ効果を活用することは注目されてこなかった.

 研究グループは,フォノンドラッグ効果の強さは,「電子の有効質量」と,「電子とフォノンの相互作用の大きさ」に比例するので,この両者を共に増大させることを考え,この可能性を検証する材料として,組成がランタン・ニッケル・酸素の酸化物であるLaNiO3に着目した.

 先ず,通常のバルク結晶では電子がよく流れる金属であるLaNiO3を1nm以下(単位格子3個分)に極薄膜化させることで,電子の有効質量の増大化,即ち,重い電子にする.これは,電子の流れる空間が制限され,電子間の電気的反発力が強まり,電子が動きにくくなる結果である.これで,フォノンドラッグ効果を強化する1つ目の条件が満たされる.次に,この極薄層ではフォノンが流れないので,同じ結晶構造であるが電気的絶縁体であるLaAlO3でLaNiO3極薄膜を挟み込みその構造とし,その界面を乱れのない三層構造とした.これによりLaNiO3の電子を狭い空間に閉じ込めることで重くしながら,上下のLaAlO3から拡散するフォノンを強く相互作用させる.実験では,原子1層ずつを制御しながら人工的に結晶構造を作製できるパルスレーザー堆積法を利用し,LaAlO3基板上に厚さ1nmのLaNiO3極薄膜とLaAlO3薄膜を積層した3層構造を作製した.フォノンドラッグ効果は220Kまで拡大し,温度で変化する熱起電力Sは約35KのピークでバルクLaNiO3の10倍の40μV/K,室温付近でも20μV/K以上の値が得られた.異なる物質を積み重ねた構造設計が,熱電変換性能向上の新しい指針に繋がると期待される.

(注)M. Kimura, X. He, T. Katase, T. Tadano, J. M. Tomczak, M. Minohara, R. Aso, H. Yoshida, K. Ide, S. Ueda, H. Hiramatsu, H. Kumigashira, H. Hosono, and T. Kamiya, "Large phonon drag ther-mopower boosted by massive electrons and phonon leaking in LaAlO3/LaNiO3/LaAlO3 heterostructure", Nano Letters, 2021, Vol. 21, No. 21, pp. 9240-9246, DOI: 10.1021/acs.nanolett.1c03143; Publication Date: October 28, 2021