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可視光で水から水素を生成する粉末光触媒の変換効率向上の条件を明確化 ~定量的な測定と理論解析により細粒化やドーピングの効果を予測~

 国立研究開発法人 産業技術総合研究所(産総研)は2021年12月7日,ゼロエミッション国際共同研究センター人工光合成研究チーム 関 和彦上級主任研究員らが,人工光合成化学プロセス技術研究組合,徳島大学 古部 昭広教授,京都大学触媒・電池元素戦略拠点 山下 晃一特任教授ら,信州大学先鋭材料研究所 堂免 一成特別特任教授(東京大学特別教授 兼務)らと共同で,可視光で水を水素と酸素に分解する酸硫化物光触媒の一つであるY2Ti2O5S2について,太陽エネルギーから水分解反応エネルギーへの変換効率が実用化の目安となる10%を超えるために必要な条件を明確化したと発表した.本研究は,国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の支援を受けて実施され,成果は英国の電子総合科学誌Nature Communications誌に掲載された (注).

 光触媒を用いて水を水素と酸素に分解する反応は,太陽エネルギーを利用した水素生成を可能とする.特に,粉末状の光触媒は,塗布によって大面積の光触媒シートを低コストで作成できることから,大規模な水素製造が期待される.2019年に,堂免 一成 信州大学特別特任教授らによって,太陽放射においてエネルギー強度が大きい波長650nm以下の可視光を吸収し,水を水素と酸素に分解する粉末酸硫化物光触媒Y2Ti2O5S2が開発された.光触媒は,光のエネルギーにより光触媒内部で電子・正孔対を生成させ,拡散して光触媒表面に到達した正孔は水を酸化して酸素を生成し,逆方向に流れた電子は表面で水を還元して水素を生成する.反応を高効率で起こすためには,光照射で生成した電子と正孔が光触媒内部で再結合して消失することなく,水と接触する光触媒表面に到達する必要がある.しかし,Y2Ti2O5S2の場合,光触媒内部ではもともと電子が正孔に対して過剰に存在するため,光励起キャリアのうち正孔は過剰な電子と再結合して反応前に失われやすく,現状の変換効率は1%以下であった.

 本研究チームは,Y2Ti2O5S2光触媒の変換効率を10%以上に向上させる指針を明らかにした.まず,光励起キャリア濃度の時間変化を1psから1μsまでの時間幅で過渡吸収分光法によって測定した.次に,この光励起キャリア濃度の時間変化に対して数値解析を行い,再結合速度定数や電子濃度などを決定し,キャリア寿命を約6nsと推定した.光触媒内部で生成した光励起キャリアのうち,キャリア寿命内に表面に到達する割合を計算し,粒子径を現状の10μmから1μmへと小さくすることにより,内部量子効率は56.5%に向上し,実用化の目安となる変換効率10%を大きく超える可能性のあることが分かった.

 また,別の変換効率向上指針として,ドーピングにより電子濃度を減少させ,キャリア寿命を延ばすことを検討した.この効果を考慮したシミュレーションを行い,電子濃度を現状5.2×1017cm-3 の約1/100に下げることによっても内部量子効率は50%以上に向上し,変換効率が10%を超えると推定した.

 今後は,酸硫化物光触媒Y2Ti2O5S2の試料に対して粒子径やドーピング量を調整し,材料物性と変換効率との相関に対する定量的な知見を触媒開発に反映させて,変換効率10%以上の実現に貢献する,としている.

(注)Vikas Nandal, Ryota Shoji, Hiroyuki Matsuzaki, Akihiro Furube, Lihua Lin, Takashi Hisatomi, Masanori Kaneko, Koichi Yamashita, Kazunari Domen, and Kazuhiko Seki, "Unveiling charge dynamics of visible light absorbing oxysulfide for efficient overall water splitting", Nature Communications, 12, Article number: 7055 (2021), DOI:10.1038/s41467-021-27199-3; Published: 07 December 2021