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がんのリンパ節転移を標的する高分子ミセル型ナノキャリア ~QOL向上を実現する革新的な治療法~

 東京大学大学院工学系研究科は2015年5月1日,同研究科のオラシオ カブラル准教授,片岡 一則教授(同大学院医学系研究科併任),同大学院医学系研究科の三浦 裕助教らの研究グループが,粒径50nm以下の高分子ミセルに抗がん剤を内包させてマウスに全身投与するとリンパ節に転移したがんに効くことを明らかにしたと発表し,東京大学大学院医学系研究科も同内容の発表を2015年5月7日にホームページ上に掲載した.本成果は米国化学会発行のACS Nano誌に発表された(注).

 現在の医療では根治が困難な悪性腫瘍のひとつとされるがんのリンパ節転移は,外科治療や放射線治療が行われるが患者への負担が大きく再発も避けられない.薬剤治療も行われるが,リンパ内投与や局所投与ではリンパの排出が予測不可能な場合や,複数のリンパ節に転移が起きている場合などでは効果に限界がある.一方,全身投与では治療薬の病巣への到達が難しく,到達量も少ないため投与量を増やす必要があるが,用量制限毒性の危険性が高まるという問題があり,リンパ節を標的とした全身投与型のDDS薬剤が求められていた.

 研究グループではこれまで,薬剤を内包した疎水性のコアと,親水性のシェルを持つ高分子ミセル型ナノキャリアの開発を行ってきた.今回の研究では,DDS薬剤として,粒径30nmと70nmの二種類の高分子ミセル型ナノキャリア,および比較として,臨床応用されているリポソーム(ドキシル®)(粒径80nm)が用いられた.これらに臨床試験中の白金制がん剤であるキソルビシン内包オキサリプラチンを内包し,悪性黒色腫のマウスモデルに全身投与してリンパ節転移への標的能力について評価が行われた.その結果,30nmのナノキャリアのみが静脈投与後に選択的にリンパ節転移に集積した.ナノキャリアの挙動の可視化によるリアルタイム観察から,30nmのナノキャリアは血管から転移巣に侵入してがん細胞を破壊するが,ドキシル® や70nmのナノキャリアは転移に侵入できず外縁に残ることが分かった.本研究により,粒径30nmの高分子ミセル型キャリアが血管を介したルートでリンパ節転移巣に集積することが確認された.一方,粒径の大きいドキシル®や70nmのナノキャリアはリンパ節に集積しても,転移部位に浸透できないことが明らかになり,リンパ節に転移したがん治療のナノキャリアを設計するうえで,粒径制御の重要性が初めて示された.本研究のナノキャリアの全身投与によるリンパ節転移の標的は,侵襲的治療や複数回の投与が必要な局所投与に比べ,患者への負担を低減しながら十分な効果が期待できるという.

 研究グループでは,本研究で見出された50 nm以下の高分子ナノキャリアを用いる治療法が医療の現場で利用され,がんの再発抑制と生存期間延長,QOLの向上に役立つことを期待している.

(注)Horacio Cabral, Jun Makino, Yu Matsumoto, Peng Mi, Hailiang Wu, Takahiro Nomoto, Kazuko Toh, Naoki Yamada, Yuriko Higuchi, Satoshi Konishi, Mitsunobu R. Kano, Hiroshi Nishihara, Yutaka Miura, Nobuhiro Nishiyama and Kazunori Kataoka, "Systemic Targeting of Lymph Node Metastasis through the Blood Vascular System by Using Size-Controlled Nanocarrier", ACS Nano, Article ASAP, DOI: 10.1021/nn5070259, Published online 16 April 2015