【公開日:2025.06.10】【最終更新日:2025.04.22】
課題データ / Project Data
課題番号 / Project Issue Number
24QS0016
利用課題名 / Title
二重露光法による遮熱コーティングの残留応力測定
利用した実施機関 / Support Institute
量子科学技術研究開発機構 / QST
機関外・機関内の利用 / External or Internal Use
外部利用/External Use
技術領域 / Technology Area
【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)計測・分析/Advanced Characterization(副 / Sub)物質・材料合成プロセス/Molecule & Material Synthesis
【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)マルチマテリアル化技術・次世代高分子マテリアル/Multi-material technologies / Next-generation high-molecular materials(副 / Sub)-
キーワード / Keywords
残留応力マップ, 溶接・接合, 中性子回折, 二重露光法,異種材料接着・接合技術/ Dissimilar material adhesion/bonding technology,X線回折/ X-ray diffraction,放射光/ Synchrotron radiation
利用者と利用形態 / User and Support Type
利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)
鈴木 賢治
所属名 / Affiliation
新潟大学教育研究院人文社会科学系
共同利用者氏名 / Names of Collaborators Excluding Supporters in the Hub and Spoke Institutes
北澤 留弥,豊川 秀訓
ARIM実施機関支援担当者 / Names of Supporters in the Hub and Spoke Institutes
城 鮎美
利用形態 / Support Type
(主 / Main)共同研究/Joint Research(副 / Sub),共同研究/Joint Research
利用した主な設備 / Equipment Used in This Project
報告書データ / Report
概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)
大気プラズマ溶射した遮熱コーテイングのトップコート(ジルコニア)の表面から界面までの残留応力をシンクロトロン放射光X線で測定した.これまで残留応力のトップコートから界面までの深さ方向分布を得ることに成功した.また,摂氏1500度高温暴露0,500,1000時間によるトップコート/ボンドコート界面の挙動についても新たな知見が得られた.
実験 / Experimental
◯試験片
Ni基超合金(IN-738) の基材にNiCoCrAlY粉末を大気プラズマ溶射し,0.15 mm 厚さのボンドコートを形成した.さらに,トップコートとして8 mol%-イットリアを含むジルコニア粉末を大気プラズマ溶射した.トップコート厚さは,0.36 mm である.高温酸化損傷を模擬して,1373 K の大気中で0時間,500時間および1000時間の高温暴露した試験片をそれぞれOX0, OX5, OX10 とする.2000時間の高温大気暴露も実施したが,ほとんどの試験片でトップコートが剥離した.剥離したトップコートは,無ひずみ試料の格子面間隔測定用として利用した.2次元検出器はCdTeピクセル検出器を使用した.
◯放射光実験
大型放射光施設SPring-8 の量子科学技術研究開発機構専用ビームラインBL14B1 にて二重露光法(DEM)により回折を測定した [1].X線波長エネルギー70 keV,スリットサイズを90×90 μmとした.ジルコニア相は224/422回折を利用した.界面ではNi3Al相が析出したので,Ni3Alの220回折を測定した.各相の応力については,回折計の回軸を0, 30, 60, 90度に変化させながら回折像を測定した.その回折角度からひずみを求め,直接法により面内方向応力と面外方向応力を決定した[2].
結果と考察 / Results and Discussion
◯高温酸化の挙動
1373 Kの高温暴露500時間の回折パターンをFig. 1に示す.この回折パターンには,トップコート表面から0.08 mmの回折と界面付近である表面から0.35 mmの深さの回折像をそれぞれ示した.両者の回折位置がわかるように,ジルコニア224+422回折の周積分領域を明るさを変えて示した.ボンドコート界面付近では,ジルコニアの回折がかすかに見られるが,他方,Ni3Alの回折斑点が明瞭になっている.高温暴露0時間においては,Ni3Alの回折斑点は全く見られないことから,このNi3Alの回折は基材からの回折ではないことは明らかである.定説に反して,高温暴露によりボンドコート層にNi3Al相が析出することが明らかになった.遮熱コーテイング断面のSEM観察によれば,アルミナ相の析出が確認されているが,本X線回折ではアルミナ相の回折が確認できなかった.
◯残留応力分布
直接法により得られた各試験片の残留応力分布をFig. 2に示す.図(a)に示すように,溶射したままの残留応力分布は,面内方向は小さな圧縮の残留応力,面外方向は引張となり,深さ方向に目立った変化はない.高温暴露500時間になると,図(b)に示すように,面内方向残留応力は大きな圧縮へと変化する.また,面外方向の残留応力も圧縮側に大きく変化する.また,注目すべきは,界面の残留応力である.界面では大きな圧縮になるが,それとはバランスするように,Ni3Al相の面内,面外残留応力は引張を示している.図(c)は高温暴露1000時間の残留応力を示している.深さz = 0.2~0.25 mm付近の面内・面外の圧縮残留応力はさらに大きくなる.しかし,界面付近 z = 0.30 mm付近では,ジルコニア相およびNi3Al相においてもそれぞれの残留応力が解放されたように小さくなっているが,ジルコニアの面外残留応力が引っ張りを示している.
これらの残留応力を挙動をまとめたものを図(d)に示した.溶射したままにおいては,トップコートおよびボンドコートも大きな残留応力が発生することなく,界面で結合している.高温暴露においては,両コーテイング層において高温状態で残留応力が緩和する.その状態で室温に降温すると,熱膨張係数差によるミスマッチを吸収するために残留応力が発生する.降温暴露1000時間になると,両コーテイング層のミスマッチを吸収できず,き裂が発生し,残留応力が解放される.
図・表・数式 / Figures, Tables and Equations
Fig.1: Diffraction patterns of specimen exposed for 500 h.
Fig. 2: Residual stress distributions and mechanism of behavior of residual stresses.
その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)
◯参考文献
[1] 鈴木 賢治, 三浦 靖史,二重露光法のための相互相関アルゴリズムによる回折角度決定,材料,Vol. 73, No. 4, pp. 286-292 (2024).
[2] K. Suzuki , Proposal for a direct-method for stress measurement using an X-ray area detector, NDT &E International, Vol. 92, pp. 104-110 (2017).
◯謝辞 本研究は,学術研究助成基金助成金基盤研究(C) 課題番号22K03819 の援助を受けた.SPring-8 のビームラインBL14B1の放射光実験は,量子科学技術研究開発機構マテリアル先端リサーチインフラ事業(No. JPMXP1224QS0016) の支援を受けた.
成果発表・成果利用 / Publication and Patents
論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
特許 / Patents
特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件