利用報告書 / User's Reports

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【公開日:2025.06.10】【最終更新日:2025.04.28】

課題データ / Project Data

課題番号 / Project Issue Number

24NI1901

利用課題名 / Title

Ni-Al-Ti合金におけるγ’粒子の配列と弾性ひずみ場の関係

利用した実施機関 / Support Institute

名古屋工業大学 / Nagoya Tech.

機関外・機関内の利用 / External or Internal Use

内部利用(ARIM事業参画者以外)/Internal Use (by non ARIM members)

技術領域 / Technology Area

【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)物質・材料合成プロセス/Molecule & Material Synthesis(副 / Sub)計測・分析/Advanced Characterization

【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)その他/Others(副 / Sub)-

キーワード / Keywords

金属間化合物, 透過型電子顕微鏡, 電子回折, 集束イオンビーム(FIB),電子顕微鏡/ Electronic microscope


利用者と利用形態 / User and Support Type

利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)

森谷 智一

所属名 / Affiliation

名古屋工業大学工学部物理工学科

共同利用者氏名 / Names of Collaborators Excluding Supporters in the Hub and Spoke Institutes
ARIM実施機関支援担当者 / Names of Supporters in the Hub and Spoke Institutes
利用形態 / Support Type

(主 / Main)機器利用/Equipment Utilization(副 / Sub)-


利用した主な設備 / Equipment Used in This Project

NI-019:走査電子顕微鏡
NI-021:複合ビーム加工観察装置群


報告書データ / Report

概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)

Ni基超合金において母相γ相(fcc構造)中に整合析出するγ’相(L12構造)は,母相と整合性を保つために格子定数差(ミスフィット)に起因する弾性的な結晶格子のひずみが析出粒子界面近傍で存在していると考えられている.しかしながら,この結晶格子の弾性ひずみ場は理論的な証明までされているものの,これまで実際の材料組織で観察・測定されたことはなかった.本研究では透過型電子顕微鏡(以下TEM)においてプリセッション電子線回折法(以下PED法)を用いて,γ’相粒子が整合析出したNi-Al-Ti合金に対して2~5nm間隔で電子線回折図形を取得し,それらをひずみの無い母相から得られた電子線回折図形と比較することで,本合金における弾性的なひずみ場を可視化することを目的とした.
本研究内容に際し,PED法で測定するためのTEM観察用薄膜試料は低次の結晶方位(できれば{001}γ)であることが求められる.そのため,あらかじめ熱処理を施したNi-Al-Ti合金のバルク試料をS-4700(設備ID:NI-019)を用いて組織観察を行い,組織形態から{001}γに近いと推測される視野の周辺を,SEM-EBSD(学内装置の日本電子製JSM-7001Fに付属)を用いて結晶方位測定を行い正確に{001}γ方位の場所を特定した.その特定した視野に対してJIB-4700F(設備ID:NI-021)を用いて,膜面垂直方位が{001}γとなるTEM観察用薄膜を切り出した.

実験 / Experimental

高周波真空溶解炉を用いて溶製し,Ni-4.8Al-6.1Ti (数字はmol%.以下全て同様) の組成の合金を本実験に供する試料とした.この合金に熱間圧延を施して板状試料としたものに対して,γ単相領域である1523Kで溶体化処理を行った後,γ+γ’ 二相領域である1123Kで2.7ks等温時効を施した.こうして得られた組織に対して,走査型電子顕微鏡(NI-019, S-4700)を用いて組織観察を行い,γ’粒子が四角い形状でかつ,各粒子同士が四角の辺同士を向かい合わせるように整列した組織形態を探した.該当する組織形態を呈する周辺に対して後方電子散乱回折法(EBSD法)を用いて結晶方位解析を行い,正確に{001}γ方位となっている場所を特定した.その特定した視野に対して集束イオンビーム加工装置(NI-021, JIB-4700F)を用いて膜面垂直方位が{001}γとなるようにTEM観察用薄膜を切り出し,TEM(学内装置の日本電子製JEM-2100F)による組織観察およびPED法による弾性ひずみ分布の測定を行った.弾性ひずみ分布の測定にはNanoMEGAS社製のASTARを用い,測定の際の設定としてナノビーム回折(NBD)モードを用いて,ビーム径を2nm,測定点間のステップサイズを3nmとした.

結果と考察 / Results and Discussion

図1はFE-SEMであるS-4700によって得られたNi-4.8Al-6.1Ti合金の反射電子像である.一辺100~200nmほどの正方形,または長方形状のγ’析出粒子が一列,もしくは縦横に整列している様子が分かる.整合析出γ’粒子は方形の一辺は{001}γ面に沿っていることが知られているため,このような組織の画面垂直方向の結晶方位がおおよそ<001>γ方向であると推定することができる.図2はFIB装置であるJIM-4700Fによって切出したTEM観察用薄膜の反射電子像である.図1のような組織が見られた場所をSEM-EBSDで結晶方位を正確に特定し,この薄膜の板面垂直方向が<001>γとなるように切り出したため,うっすらと図1と同様のγ’析出粒子が整列している組織が観察できる.図3はPED法によって得られた電子線回折図形をASTARによって解析したもので,(a)は電子線回折図形の透過波を用いて作成した仮想的な明視野像,(b),(c)は(a)中の赤の点で示した場所を参照点とし,そこから得られた電子線回折図形と,その他の場所から得られた電子線回折図形を比較することで100, 200, 300および010, 020, 030の回折スポットの位置の違いから結晶格子が弾性的に歪んでいる状態を解析し,そのひずみ量の分布を右下に示すカラーチャートに従って示したものである(引張のひずみを正,圧縮のひずみを負としている).(b)は[100]方向,すなわち画面横方向のひずみ状態の分布を表しており,(c)は[010]方向,すなわち画面縦方向のひずみ状態の分布を表している.この結果において,赤の参照点のすぐ左の孤立粒子や参照点下側のγ’粒子の間隔が縦横均等に配列している場所におけるγ’粒子内部のひずみの色は(b), (c)共にほぼ同じ緑色であり,両者に際は無い,すなわちγ’粒子内部のひずみに異方性が無いと言える.それに対して画面左下の横同士の粒子間隔の方が縦の粒子間隔よりも狭い,横一列に並んだように見える組織においては,(b)よりも(c)の方が黄色から赤が強く引張のひずみ量が大きいことが分かる.このことからγ’粒子の間隔に異方性がある([100]方向と[010]方向で距離に差がある)場合,γ’粒子内部のひずみ状態にも異方性があることが分かった.
このような現象は「概要」で述べたように計算機によるシミュレーションなどで予測されていたが,実際の組織観察で確認されたのはこの研究が初めてである.また,γ’粒子の間隔が狭い場合,粒子の間の母相(チャンネル部と呼ぶ)はγ’粒子の向かい合っている面に垂直方向に圧縮のひずみが生じ,参照点の母相よりも結晶格子が狭くなっている状態になっていることが新たに分かった.このような現象が起きる原因についてはまだ明らかにできていないが,今のところは以下のように考えている.例えばゴムの板を一方向に引き延ばすとその方向に垂直な方向には縮む.これは体積が一定であることを保つために生じる現象であると言える.これと同様で,チャンネル部ではγ’粒子の各面に沿った方向に格子が引き延ばされる(整合界面における弾性ひずみ)ため,その方向に垂直な方向には圧縮のひずみが生じることが考えられる.

図・表・数式 / Figures, Tables and Equations


図1. FE-SEM(S-4700)によるNi-Al-Ti合金の表面観察像



図2. FIB装置(JIB-4700F)によりNi-Al-Ti合金から切出したTEM観察用試料



図3. PED法を用いて解析したNi-Al-Ti合金におけるγ母相とγ’析出粒子の弾性ひずみ (a) PED法による電子線回折図形の透過波を用いて得られた仮想明視野像 (b) [100]方向における結晶格子の引張・圧縮状態 (c) [010]方向における結晶格子の引張・圧縮状態 (引張を正,圧縮を負とし,大きさは右のカラーチャートに従って表示)


その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)


成果発表・成果利用 / Publication and Patents

論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
  1. 森谷智一, 川原拓巳, 徳永透子, 萩原幸司, "Ni-Al-Ti合金におけるγ'析出粒子の配列と粒子周囲の弾性ひずみ場の関係" 日本金属学会2025年春期講演(第176回)大会(東京都立大学南大沢キャンパス), 令和7年3月9日
特許 / Patents

特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件

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