【公開日:2025.06.10】【最終更新日:2025.05.02】
課題データ / Project Data
課題番号 / Project Issue Number
24MS3005
利用課題名 / Title
がん細胞特異的結合分子探索効率を向上させるマイクロ流路デバイスの開発
利用した実施機関 / Support Institute
自然科学研究機構 分子科学研究所 / IMS
機関外・機関内の利用 / External or Internal Use
外部利用/External Use
技術領域 / Technology Area
【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)物質・材料合成プロセス/Molecule & Material Synthesis(副 / Sub)加工・デバイスプロセス/Nanofabrication
【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)次世代バイオマテリアル/Next-generation biomaterials(副 / Sub)-
キーワード / Keywords
マイクロ流路,細胞均一分散,細胞培養,リソグラフィ/ Lithography,流路デバイス/ Fluidec Device
利用者と利用形態 / User and Support Type
利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)
神永 真帆
所属名 / Affiliation
豊田工業高等専門学校機械工学科
共同利用者氏名 / Names of Collaborators Excluding Supporters in the Hub and Spoke Institutes
ARIM実施機関支援担当者 / Names of Supporters in the Hub and Spoke Institutes
利用形態 / Support Type
(主 / Main)機器利用/Equipment Utilization(副 / Sub)-
利用した主な設備 / Equipment Used in This Project
報告書データ / Report
概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)
細胞実験で微少な量の細胞を観察したいとき、細胞サイズとスケールが近いマイクロ流路デバイスを用いて実験を行うことで効率的に実験できる。しかし培養細胞を使用する実験においては、培養液中の細胞の密度によって細胞の特性が異なることがあるため、再現性を向上させるには培養液中の細胞の密度を均一にする必要がある。しかしマイクロ流路デバイスでは慣性力に対して粘性力が支配的になるため、流路内の培養液の流れは層流となり乱流に遷移させて細胞を分散することはできない。
そこで、マイクロ流路デバイスのチャンバ内にマイクロピラーアレイ(MPA)を設置したところ、ピラーの間で細胞の塞栓と通過が繰り返されてランダムな流れが発生し、培養液中の細胞が分散した。しかし細胞の通過率が30%と低く、貴重な細胞には適用できない。
そこで先行研究ではバルーンアクチュエータを用いて、細胞導入時には流路を狭め、細胞回収時には流路を元に戻すことで細胞通過率を向上させた。しかしMPAの形状や配列が細胞の均一分散と回収率に最適であるかは不明であった。
本研究では、こうした背景から細胞均一分散時の細胞の流れをPIV 解析手法によって表現したことを報告するものである。いくつかの異なる形状のピラーをもつMPAにおいて、バルーンを用いて流路を狭め細胞を導入することで、それぞれのピラーの形状が細胞の分散にどのような変化をもたらすかをPIV 解析によって観察し、細胞の流れを可視化させた。
今後はPIV解析の結果から最適なMPA形状を予測し実験を行っていく。
実験 / Experimental
分子科学研究所内にてフォトリソグラフィを使用し、鋳型をPDMS(Polydimethylsiloxane, SILPOTTM184W/C, The Dow Chemical Company)で型取り、流路層とバルーンアクチュエータ層、薄膜の三部品を接合してデバイスを製作した。これまでの製作手順では流路層と薄膜を接合した後に、バルーンアクチュエータ層を接合していた。しかし、この手順で製作すると流路層と薄膜が付着し細胞の流れを阻害してしまう。そのため、先にバルーンアクチュエータ層と薄膜を接合し、流路層と接合する手順に変更した。
鋳型を持ち帰り、学校にてバルーンを加圧した状態でデバイスに細胞懸濁液を導入した。細胞の流れる様子をハイスピードカメラ(DITECT, HAS-U2)で撮影し、10秒の動画についてPIV解析を行った。ソフトはImage Jを使用する。撮影条件は 60 fps, 1290×980 sizeで、流路内での流速は約1000 mm/minである。実験に使用するMPAとバルーンの幅はそれぞれ1300 µmとした。細胞は凝集が起こりやすいU-87MG細胞を使用した。
はじめに、デバイスを精製水に沈めて減圧して脱気した。これは細胞導入中に気泡が混入し細胞が流れなくなってしまうのを防ぐためである。次に37 ℃に加温した培養液(D-MEM (高グルコース, L-グルタミン,フェノール
レッド含有, 和光))を流路内に導入し、流路内の洗浄と気泡の除去を行った。細胞懸濁液の入ったシリンジをシリンジポンプにセットし、シリンジの先はチューブでマイクロ流路デバイスの細胞導入口に差し込む。このとき気泡の混入を防ぐために、水を張ったトレイの中などの水中で行った。バルーンはエアコンプレッサ、エアレギュレータ、電磁弁を用いて0.2 MPaの空圧を印加した。これまではバルーンの中に空気を導入していたが、屈折率の違いにより細胞の観察が難しくなるため水で満たしたバルーンに空気圧を印加することで観察のしやすさと応答性を両立させた。バルーンが膨らんだ状態で、シリンジポンプを用いて流量 10 µL/min で細胞懸濁液を流路に導入した。
結果と考察 / Results and Discussion
細胞均一分散の実験でマイクロピラーアレイを通過している細胞を図 1 に示す。PIV 解析をするにあたって、細胞とPDMSの流路とをはっきりと見分けるためにコントラストを調整した。図2は図1の動画を60 fps,1000
コマでPIV解析をした結果である。細胞均一分散の実験の動画についてPIV解析を行うことで、細胞導入口などの部分で流速が速くなっていることがベクトル表示によって確認できた。
このことから、マイクロ流路デバイス内の細胞の流れについてPIV解析が可能と考えられる。MPA部においても細胞の流れのベクトルが分岐していることが確認できるため、細胞の流れがピラーによって変化していると考えられる。直感的には、中央の細胞導入口から流路に入ってきた細胞懸濁液は流路の中央部を流れてしまうことが予想されていたが、MPAに到達する前に流路幅全体に細胞懸濁液が流れていることが可視化された。MPAによって細胞の流れに影響を与えることができた
と考えられる。
図・表・数式 / Figures, Tables and Equations
図1 マイクロピラーアレイを通過している細胞
図2 図1のPIV解析結果
その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)
成果発表・成果利用 / Publication and Patents
論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
特許 / Patents
特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件