利用報告書 / User's Reports

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【公開日:2025.06.10】【最終更新日:2025.04.30】

課題データ / Project Data

課題番号 / Project Issue Number

24UT1049

利用課題名 / Title

蛍光を用いた三次元形状計測に関する研究

利用した実施機関 / Support Institute

東京大学 / Tokyo Univ.

機関外・機関内の利用 / External or Internal Use

内部利用(ARIM事業参画者以外)/Internal Use (by non ARIM members)

技術領域 / Technology Area

【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)計測・分析/Advanced Characterization(副 / Sub)-

【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)高度なデバイス機能の発現を可能とするマテリアル/Materials allowing high-level device functions to be performed(副 / Sub)-

キーワード / Keywords

蛍光応答光プロービング(FROP)法、三次元測定法、3S(Small, Smooth, Steep)構造、自家蛍光,光学顕微鏡/ Optical microscope,電子顕微鏡/ Electronic microscope,高品質プロセス材料/技術/ High quality process materials/technique


利用者と利用形態 / User and Support Type

利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)

道畑 正岐

所属名 / Affiliation

東京大学工学系研究科精密工学専攻

共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes
ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes
利用形態 / Support Type

(主 / Main)機器利用/Equipment Utilization(副 / Sub)-


利用した主な設備 / Equipment Used in This Project

UT-855:高精細電子顕微鏡
UT-850:形状・膜厚・電気特性評価装置群


報告書データ / Report

概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)

本論文では、精密製品の3次元計測のための蛍光応答光プロービング(FROP)法を提案している。三次元測定法には、微小三次元測定機、共焦点顕微鏡、点オートフォーカス顕微鏡などがある。しかし、金型や光学レンズのような、小さく、滑らかで、急峻な(3S)構造を持つ精密製品の測定は、依然として困難である。本研究では、試料表面からの自家蛍光を利用した新しい表面検出スキームを提案している。従来測定手法が用いる正反射光とは異なり、蛍光は広い角度にわたって放出される。したがって、測定表面で蛍光を励起することにより、3S(Small, Smooth, Steep)構造の表面からの光学応答を得ることができる。基本的なFROP信号をさまざまな角度で傾いた表面で調べたが、FROPは垂直な面、さらには張り出した面さえも検出することに成功し、3次元計測への強い可能性を示した。従来の共焦点顕微鏡による2.5次元測定との比較を通じて、表面位置決定の原理を検証し、厚さ測定の結果をマイクロメートルの結果と比較した結果、FROPにおける微分シグナルのピーク位置が試料表面と一致していることが明らかになった。最後に、3次元3S構造を測定した。その結果、従来の共焦点顕微鏡では測定できなかった垂直面を、FROP法では測定できることが確認された。その結果、精密製品の3次元計測におけるFROPの性能が検証された。本研究では、測定物が発する蛍光を用いた表面検出を行う。原理の大筋は、励起光を集光し、その集光スポットで測定物の自家蛍光を励起する。測定物が発した蛍光を集光して共焦点検出する。測定物あるいは対物レンズを走査し、蛍光信号強度の変化を測定することで、表面の位置を検出する。蛍光の放射は励起光エネルギが増加することで放射量が増加する。そのため、取得する蛍光信号のS/N比を向上し、測定の空間分解能を高めるためにも集光ビームを用いて測定物を照射する。集光ビームで励起された蛍光は、再度対物レンズによって集められる。蛍光は、励起光の入射方向によらず広い角度範囲で放射される(Michihata, et al., 2014)ため、単純な集光検出系では迷光によるノイズが発生し、表面位置の検出精度が悪化する。そこで、対物レンズの集光点付近の蛍光のみを取得するため共焦点光学系を用いて検出する。蛍光検出の空間的な範囲はConfocal volumeによって決定される。集光スポットが測定面の外側にある時は、蛍光信号はほぼゼロである。集光スポットが測定面に近接すると徐々に信号強度が大きくなり、集光スポットと測定面が大きく重なる際に信号強度が最大となる。その後、集光スポットが測定面内部に侵入すると、集光スポットに至る前に光が吸収されるなど、共焦点のピンホールを抜ける蛍光の強度が極端に低下する。

実験 / Experimental

通常の共焦点顕微鏡の場合、測定面で反射あるいは散乱する光が最も多く共焦点ピンホールを抜けるのは、集光スポットと測定面表面が一致する時であるため、共焦点ピークが測定面にほぼ一致すると考えて良い。しかし、本研究で提案する自家蛍光信号に基づくプロービングの場合、信号ピークは測定面とは一致しない。入射光の強度分布はガウス分布であり、集光スポットの中心近傍が最も高いエネルギ密度となる。また、光検出系におけるConfocal volumeも中心が最も透過率が高く、中心から離れるに従い透過率が低下する。そのため、集光スポットの中心が測定面を横切る際に、最も強く信号変化率が高く、信号の立ち上がりから信号ピークを迎える信号変化の変曲点になっていると考えられる。つまり、走査によって得られる蛍光共焦点信号の微分信号のピークが測定面の表面を示している。本研究で提案する測定物自身が放つ蛍光応答を用いた光学プロービングをFROP(Fluorescence response-based optical probing)と呼ぶ。FROPを用いた表面検出の原理について実験によって検証し、本プロービング原理を用いた3D構造物の形状計測性能について議論する。3S構造の例として、3次元的に異なる曲率を持った微細溝形状の測定を行った。サンプル母材はアクリルプレートで、凹型の溝構造に加工した。測定形状の断面を走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscopy, SEM)で観察した像を図1に示す。溝部の最小幅は約250μmであった。FROPと他の測定結果を比較するため、SEMの断面観察像による測定および共焦点顕微鏡による測定を行なった。断面画像から表面プロファイルを取得するために、画像を2値化した後、微分値を計算することで表面位置を検出した。走査によって得られたFROP信号を図2に示す。測定物表面で強い信号ピークが得られている。30 °程度の比較的浅い角度では強い信号が得られており、90°の垂直面でも信号が得られている。FROP信号の微分信号ピークの位置を表面位置とし、測定結果を求めた。

結果と考察 / Results and Discussion

従来の代表的な測定方法である共焦点顕微鏡とSEM、およびFROP法によって測定された微細な溝構造の形状計測結果を図3に示す。可能な限り近い箇所を測定しているものの、それぞれの測定によ る厳密な測定位置は異なっている。また、それぞれの測定結果の座標軸の統一に関して、最も広い範囲で測定値が得られているSEMの測定結果を基準に偏差を見ることで、それぞれの測定結果が最も一致している箇所を推定した。SEM に関しては、厳密には測定物表面ではなく、活断面のエッジの輝度値変化が大きい箇所を表面としており、断面形成の際にバリなども影響が出ている。また、共焦点顕微鏡の20倍対物レンズ(NA0.46)を用いた場合は、視野の制限から溝構造の片側半分のみを測定している。以上を踏まえ、測定結果を比較すると、共焦点顕微鏡は低NAの際にやや大きなノイズが見られるものの、低NAと高NA共に72°付近まで測定点が得られていた。これは、対物レンズの集光角を大きく上回る角度であり、つまり正反射光ではなく、表面からの散乱光を取得することで測定値を得られていることがわかる。コンタミなどの影響で、溝構造の表面粗さがやや大きくなっている可能性があるが、共焦点顕微鏡などの従来測定器では、散乱光を取得することで比較的大きな 傾斜面であっても測定を行うことができる。それでも75°を超えるような急斜面については、測定値を得られなかった。FROPの計測結果を見ると、共焦点顕微鏡では得ることができなかった90°の斜面まで測定結果が得られていることがわかる。測定値もSEMや共焦点顕微鏡と同様であり、測定物表面の傾斜角度に関係することなく正しく表面位置を検出できていることがわかる。測定点数は、商用測定器には劣るものの、表面検出結果のばらつきが少なく安定した信号が得られている。蛍光信号を用いることの利点として、レーザスペックルの影響を受けない点がある。共焦点顕微鏡などでは、単一波長光を用いた場合、表面で散乱した光が光検出器面で干渉して、信号強度がばらつくという影響があるが、蛍光信号はインコヒーレントであるためスペックルの影響を 受けず、安定した信号が得られるという特性がある。このように、FROP信号を用いることで、従来の3D測定技術では困難であったSmall, Smooth, Steepな表面を含む構造の計測が可能であった。

図・表・数式 / Figures, Tables and Equations


図1  3S構造のSEM断面写真



図2  FROPの走査信号



図3  様々な測定方法による3S構造の測定結果


その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)


成果発表・成果利用 / Publication and Patents

論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
特許 / Patents

特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件

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