【公開日:2025.07.10】【最終更新日:2025.07.10】
課題データ / Project Data
課題番号 / Project Issue Number
22KU1039
利用課題名 / Title
近赤外―可視変換光アップコンバージョンフィルムの開発
利用した実施機関 / Support Institute
九州大学 / Kyushu Univ.
機関外・機関内の利用 / External or Internal Use
外部利用/External Use
技術領域 / Technology Area
【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)物質・材料合成プロセス/Molecule & Material Synthesis(副 / Sub)-
【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)革新的なエネルギー変換を可能とするマテリアル/Materials enabling innovative energy conversion(副 / Sub)次世代ナノスケールマテリアル/Next-generation nanoscale materials
キーワード / Keywords
赤外・可視・紫外分光/Infrared and UV and visible light spectroscopy
利用者と利用形態 / User and Support Type
利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)
森 岳志
所属名 / Affiliation
和歌山県工業技術センター
共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes
ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes
利用形態 / Support Type
(主 / Main)機器利用/Equipment Utilization(副 / Sub)-
利用した主な設備 / Equipment Used in This Project
報告書データ / Report
概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)
近赤外から可視光に変換する固体型三重項―三重項消滅光アップコンバージョン(triplet-triplet photon upconversion: TTA-UC)材料の開発は、 太陽電池への組み込みなど太陽光の有効利用に期待されている。 TTA-UCの発光メカニズムにおいて、 二種類の分子間(増感色素と発光色素)を三重項励起子が移動、 拡散することでTTAに至るため、 三重項励起子の挙動を把握することが、
新規分子設計などUC発光特性向上に向けた重要な課題の一つとなっている。 三重項の励起状態は、 定常状態の発光(りん光)、 その発光の減衰を時間分解測定により調べていくことで、 三重項励起子のダイナミクスについて多くの情報得ることができる。
そこで本機器利用では、 合成した色素間で三重項励起子がどの程度移動しているかを調べ、 TTA-UCに必要な増感色素から発光色素への三重項エネルギー移動がどの程度起こっているかを明らかにするため、 近赤外蛍光分光装置(装置ID:KU-507)を利用して増感色素のりん光スペクトルを測定した。
実験 / Experimental
増感色素は図1に示すβ位のπ共役を拡張させたポルフィリン、 PdTPTAPを用いた。 発光色素は、 ①ジケトピロロピロール(DPP)系π共役系高分子と②ルブレン(PVAフィルム中)の二つの発光色素系について調べた。 測定サンプルは溶液状態及び固体状態を用意した。 溶液は酸素の影響を最小限にするために、 グローブボックス内で溶液調製を行いガラスセルに封止して測定を行った。 固体はスピンコー卜膜(ポリマー濃度、 2 mg/ml、 500 rpmでスピンコー卜)と色素含有PVAフィルムを用いた。 スピンコート膜は溶液と同様にグローブボックス内でサーリンをスペーサーとして、 カバーガラスにて封止を行った。 PVAフィルムはそのまま測定に使用した。
結果と考察 / Results and Discussion
図2にDPP系π共役系ポリマーとPdTPTAPの系についてりん光スペクトルの変化を示す。 DPP1-PdTPTAPのスピンコート膜の比較対象としてPdTPTAPのPMMA薄膜を使用した。 結果としては、 PdTPTAPのりん光が大きく減少していた。 一方で、 溶液状態を比較すると、 薄膜ほどりん光の減少は大きくなかった。 一般的に効率よく三重項エネルギーが移動する系においては、 発光色素への三重項エネルギー移動により増感色素のりん光が極めて弱くなることから、 DPP1-PdTPTAPにおいては三重項エネルギー移動が効率よく起こっていないことが示唆される。 分子軌道計箕の結果、 DPP1の励起三重項準位は約1.13eVとなっており、 PdTPTAPの三重項準位、 1.14eVとわずかに高くなっている。 そのため実際の準位がPdTPTAPよりも高い場合は三重項エネルギーの移動が起こりにくくなる。 また薄膜でりん光が大きく減少した理由は、 マトリックスによる増感色素の凝集の違いが影響していることも考えられる。 結果として、 この組み合わせにおいて近赤外光(810nm)励起で発光スペクトルを測定したが、 固体、溶液ともにUC発光は確認できなかった。 続いて、 DPP2-PdTPTAPの結果を図3に示す。 その結果、 薄膜のりん光発光は完全に消えていることが分かった。 溶液状態でのりん光発光測定は行っていないが、 溶液中で810nm励起の発光測定を行うと610nm辺りにUC発光を確認できた。 分子軌道計算からもDPP2の三重項準位は約1.02eVに位置することから、 PdTPTAPから効率よく三重項エネルギーが移動していることが示唆される。 今後は固体系でのUC発光特性を調べて、 りん光発光の変化と関連付けた考察をしていく。 最後に、 ルブレン-PdTPTAP系のりん光の変化を調べた。 図4にりん光発光スペクトルの結果を示す。 PdTPTAPの濃度を固定してルブレンの濃度を大きくしていくと、 りん光発光が強くなることが確認できた。 ルブレン-PdTPTAPでは極めて強いUC発光が確認できるため、 PdTPTAPから三重項エネルギーが効率よく移動していると考えられる。 一方で、 このりん光発光が強くなる結果については、ルブレンが入ることでPdTPTAPの凝集状態が変化し、 三重項エネルギー動以外の失活が少なくなったのではと推察される。 本結果についてはフィルム中の色素の集合状態をより詳細に調べていくことで明らかにしていく。
図・表・数式 / Figures, Tables and Equations
図1.本実験で使用した増感色素及び発光色素の構造。
図2.DPP1-PdTPTAPのりん光発光変化。薄膜のPdTPTAPのみはPMMAマトリックスを使用。DPP1のトルエン溶液の濃度は0.04 gmlで、PdTPTAPの濃度は3.8 μMとした。
図3.DPP2-PdTPTAPのりん光発光変化。
図4.ルブレン-PdTPTAPのりん光発光変化。
その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)
成果発表・成果利用 / Publication and Patents
論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
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Takeshi Mori, High-Efficiency Near-Infrared-to-Visible Photon Upconversion in Poly(vinyl alcohol) Porous Film, ACS Macro Letters, 12, 523-529(2023).
DOI: 10.1021/acsmacrolett.3c00008
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
特許 / Patents
特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件