利用報告書 / User's Reports

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【公開日:2025.06.10】【最終更新日:2025.05.01】

課題データ / Project Data

課題番号 / Project Issue Number

24NM0081

利用課題名 / Title

2次元物質積層ヘテロ構造デバイスの研究

利用した実施機関 / Support Institute

物質・材料研究機構 / NIMS

機関外・機関内の利用 / External or Internal Use

外部利用/External Use

技術領域 / Technology Area

【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)加工・デバイスプロセス/Nanofabrication(副 / Sub)-

【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)量子・電子制御により革新的な機能を発現するマテリアル/Materials using quantum and electronic control to perform innovative functions(副 / Sub)次世代ナノスケールマテリアル/Next-generation nanoscale materials

キーワード / Keywords

グラフェン/graphene, 量子ドット/quantum dot, 半導体微細構造/ Semiconductor microstructure,ナノカーボン/ Nano carbon,ALD,電子線リソグラフィ/ EB lithography,量子コンピューター/ Quantum computer,スピン制御/ Spin control,蒸着・成膜/ Vapor deposition/film formation,膜加工・エッチング/ Film processing/etching


利用者と利用形態 / User and Support Type

利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)

羽田野 剛司

所属名 / Affiliation

日本大学 工学部

共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes

山内皓太,池本大輝,早津崇

ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes

渡辺 英一郎

利用形態 / Support Type

(主 / Main)技術補助/Technical Assistance(副 / Sub),技術代行/Technology Substitution


利用した主な設備 / Equipment Used in This Project

NM-635:電子ビーム描画装置 [ELS-BODEN100]
NM-609:電子銃型蒸着装置 [ADS-E86]
NM-614:CCP-RIE装置 [RIE-200NL]


報告書データ / Report

概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)

 炭素原子1個分の厚さを持つグラフェンは、次世代の半導体材料として注目を集めている。特に、炭素原子においては、核スピンをもたない12Cの同位体比が約99%であり、さらにスピン軌道相互作用も小さいため、電子スピンのコヒーレンス時間が長い。そのため、電子スピンの2状態(アップ及びダウンスピン)を利用した量子コンピュータの有力な材料候補である。1個の電子スピンを制御するためには、電子を1個単位で制御可能な量子ドットデバイスが有用である。しかし、電子の制御を高精度で実現する量子ドットを実現させることは非常に困難である。高精度な量子ドットの制御を困難にしている原因は、量子ドットをグラフェンのエッチングにより実現した際、グラフェンの端に結晶欠陥が生じ、その欠陥が量子ドットの特性に影響を与えるためである。このような結晶欠陥の効果を減らすためには、量子ドットをエッチングではなく、静電的に実現することが有効である。したがって、本研究の目的は、静電的に形成される量子ドットの実現を目指し、まずは静電的に形成される量子細線を実現させ、その電気特性を明らかにすることである。

実験 / Experimental

 本研究の目的は、グラフェン、hBN及びグラファイトを用いたヘテロ構造を用いて量子ドットを作製することである。そのため、今年度は次の実験を行った。(1) 昨年度作製した量子細線の電気伝導特性を測定した。(2) 量子細線の作製に最適なグラフェン、hBN及びグラファイトの薄膜を作製した。その際、それぞれの層数及び厚さを測定した。さらに、これらの薄膜を用いて、hBN/2層グラフェン/hBN/グラファイト・ヘテロ構造を作製した。 (3) 我々が作製したヘテロ構造に対するグラフェン量子細線の作製を行った。量子細線の作製に関しては、NM-635の電子線描画装置及び、NM-614のCCP-RIE装置を用いてコンタクトホール作製後、NM-609の蒸着装置でグラフェンとのコンタクト電極を作製した。その後、NM-635の電子戦描画装置及びNM-609の蒸着装置を用いてソース、ドレイン及びゲート電極を作製した。

結果と考察 / Results and Discussion

 (1)~(3)の実験結果は、次のとおりである。
 (1)図1(a)に、昨年度、我々が作製した量子細線の光学顕微鏡写真を示す。この図において、赤丸で囲まれた領域に量子細線が形成されている。この量子細線にソースドレイン電圧(Vsd)を印加した時のソースドレイン電流(Isd)の測定結果を、図1(b)に示す。図のように、Vsdに比例してIsdが流れており、抵抗は約1kΩである。次に、2つのスプリットゲートのリーク電流(Il)の測定を行った。その結果を図1(c)に示す。Ilの測定は、2つのスプリットゲートにスプリットゲート電圧(Vsg)を印加して行った。図から明らかなように、IlVsgに比例しており、抵抗も約10kΩとあまり大きくない値を示している。したがって、スプリットゲートとグラフェンの間のhBNが絶縁破壊をおこし、リーク電流が流れていると考えられる。量子細線作製直後は、スプリットゲートのリーク電流がなかったことから、量子細線の低温での測定の準備の過程において、静電気でhBNが絶縁破壊されたと考えられる。次に、図1(d)にバックゲート電圧(Vbg)を印加した時のIsdの測定結果を示す。ここで、Vsdは1mVである。図から明らかなように、Vbgが約-0.3V付近でIsdが最小値となり、Vbgを大きくしても小さくしても電流が大きくなるバイポーラ特性を示している。このバイポーラ特性は、グラフェンの電気特性の特徴であり、バックゲート電圧でグラフェンのキャリアを制御できていることが示している。  
 (2)我々は、グラフェンを用いた量子細線の作製のために、グラフェン、hBN、グラファイトの薄膜を、機械的剥離法を用いて作製した。その結果を図2に示す。図2(b)示したグラフェンは、ラマン分光測定により2層であることを確認した。また、図2(a), (c)に示したhBN(a)及びhBN(b)はそれぞれヘテロ構造の上部及び下部のhBNに対応し、その厚さは、原子間力顕微鏡(AFM)による測定により、それぞれ35nm, 45nmである。さらに、図2(d)で示したグラファイトにおいても、AFMの測定結果より、厚さは約4nmである。この4つの薄膜を用いて、hBN/2層グラフェン/hBN/グラファイト・ヘテロ構造を作製した。その結果を図3 に示す。上から赤線がhBN(上部)、黒線がグラフェン、青線がhBN(下部)、白線がグラファイトとなっている。図から明らかなように、グラフェン領域がhBN/グラフェン/hBN/グラファイト・ヘテロ構造になっている。
 (3)図4に、作製したヘテロ構造に対する量子細線を実現するための電極のCADパターンを示す。パターンの設計に関しては、ヘテロ構造の正確な位置を光学顕微鏡写真をCADデータに貼付することにより確認し、さらに余分なグラフェンなどによる配線の段切れを防ぐように気を付けた。このCADパターンを用いて、上記の量子細線作製方法に沿って、hBN/2層グラフェン/hBN/グラファイト・ヘテロ構造を用いた量子細線の作製を行った。

図・表・数式 / Figures, Tables and Equations


図1 (a)作製したグラフェン量子細線の光学顕微鏡写真 (b)ソースドレイン電流(Isd)のソースドレイン電圧依存性(Vsd) (c)リーク電流(Il)のスプリットゲート電圧(Vsg)依存性 (d)ソースドレイン電流(Isd)のバックゲート電圧(Vbg)依存性



図2 (a)hBN(a) (b)グラフェン (c)hBN(b) (d)グラファイトの光学顕微鏡写真図



図3 hBN/グラフェン/hBN/グラファイトヘテロ構造の光学顕微鏡写真



図4 グラフェン量子細線のCADパターン


その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)


成果発表・成果利用 / Publication and Patents

論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
  1. 山内 皓太, 池本 大輝, 早津 祟, 岩﨑 拓哉, 渡邊 賢司, 谷口 尚, 沼田 靖, 羽田野 剛司, “グラフェンを用いた量子細線の作製”, 応用物理学会東北支部 第79回学術講演会(宮城県), 令和6年12月6日.
  2. 池本大輝, 山内皓太, 早津祟, 岩﨑拓哉, 渡邊賢司, 谷口尚, 沼田靖, 羽田野剛司, “グラフェン量子ドットデバイスに向けたグラフェン・六方晶窒化ホウ素の層数解析”, 第67回日本大学工学部学術研究報告会(福島県), 令和6年12月7日.
  3. 山内皓太, 池本大輝, 岩﨑拓哉, 渡邊賢司, 谷口尚, 早津祟, 沼田靖, 羽田野剛司, “2層グラフェンを用いたヘテロ構造デバイスの作製”, 第67回日本大学工学部学術研究報告会(福島県), 令和6年12月7日.
特許 / Patents

特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件

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