利用報告書 / User's Reports

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【公開日:2025.06.10】【最終更新日:2025.03.27】

課題データ / Project Data

課題番号 / Project Issue Number

24BA0028

利用課題名 / Title

金属ハライドペロブスカイト半導体の物性評価

利用した実施機関 / Support Institute

筑波大学 / Tsukuba Univ.

機関外・機関内の利用 / External or Internal Use

内部利用(ARIM事業参画者以外)/Internal Use (by non ARIM members)

技術領域 / Technology Area

【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)計測・分析/Advanced Characterization(副 / Sub)-

【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)革新的なエネルギー変換を可能とするマテリアル/Materials enabling innovative energy conversion(副 / Sub)高度なデバイス機能の発現を可能とするマテリアル/Materials allowing high-level device functions to be performed

キーワード / Keywords

光デバイス/ Optical Device,センサ/ Sensor,太陽電池/ Solar cell,走査プローブ顕微鏡/ Scanning probe microscope,電子分光/ Electron spectroscopy


利用者と利用形態 / User and Support Type

利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)

松石 清人

所属名 / Affiliation

筑波大学数理物質系

共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes

Shamim Ahmmed,新鞍 健也,高原 直暉,Rahman Md Ataur,鵜瀬 雅隆,下田 諒太郎

ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes

岡野 彩子

利用形態 / Support Type

(主 / Main)機器利用/Equipment Utilization(副 / Sub),技術補助/Technical Assistance


利用した主な設備 / Equipment Used in This Project

BA-020:顕微ラマン
BA-026:多機能走査型X線光電子分光分析装置(XPS/UPS)
BA-006:走査型プローブ顕微鏡


報告書データ / Report

概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)

 金属ハライドペロブスカイト太陽電池材料の光・電子物性と構造物性の相関には不明な点が多く、変換効率向上と結晶安定化のためには基礎物性の解明が不可欠である。本研究では、顕微ラマン分光装置を使用して高圧力印加による鉛フリーダブルペロブスカイト半導体(CH3NH3)2KBiCl6、Cs2KBiCl6、Cs2AgSbCl6の構造相転移及び局所構造の変化を調べた。また、n-i-p構造のPb系ペロブスカイト太陽電池(PSC)の電子輸送層(ETL)にCe添加SnO2を用い、Ce添加によるETLとペロブスカイト層の伝導帯バンドエネルギーアライメント調整効果と表面欠陥(酸素空孔)の抑制効果についてX線光電子分光装置を用いて調べた。さらに、p-i-n構造のPb系PSCでは低分子有機材料4,4',4''-Tris[2-naphthyl(phenyl)amino]triphenylamine(2TNATA)を正孔輸送層(HTL)に用い、HTLの最高被占軌道(HOMO)エネルギーレベルをX線光電子分光測定によって調べ、ペロブスカイト層の価電子帯とのバンドアライメントを検討した。2TNATA膜の表面状態を走査型プローブ顕微鏡によって調べ、2TNATA膜上に堆積させるペロブスカイト層の膜質向上を検討した。

実験 / Experimental

1.顕微ラマン分光実験(JASCO NRS-5100)
 A2KBiCl6(A= MA(=CH3NH3), Cs)及びCs2AgSbCl6の3つの単結晶試料に対して、ヘリウムを圧力媒体として大気圧からそれぞれ7.7、9.3、15.9 GPaまで加圧しながら測定を行い、その後再び大気圧まで減圧しながら測定を行った。
2.多機能走査型X線光電子分光分析実験(ULVAC-PHI PHI VersaProbe 4)
 n-i-p構造の電子輸送層にCe添加SnO2を用いたPb系PSCにおいて、Ceの価数や結合状態、Ce添加による酸素空孔の変化、伝導帯最下点エネルギーの変化をXPSまたはUPSにより調べた。p-i-n構造の正孔輸送層に2TNATAを用いたPb系PSCおいて、溶媒エッチング法による2TNATA膜の変化をXPSで調べ、2TNATA膜のHOMOエネルギーレベルをUPSによって調べた。
3.走査型プローブ顕微鏡観察(Bruker、Dimension Icon)
 FTO基板及びFTO基板上に製膜したETL(2TNATA膜、PEDOT:PSS膜、PTAA膜)の表面状態(粒界や粗さなど)をAFMによって観察した。また溶媒エッチング法によるFTO基板上の2TNATA膜の表面状態変化をAFMによって調べた。

結果と考察 / Results and Discussion

 (MA)2KBiCl6(MA=CH3NH3)の高圧ラマン散乱測定では、0.9 GPaと1.8 GPaでKCl6とBiCl6八面体由来の振動モードの不連続な変化を確認した(図1)。この結果は、高圧粉末X線回折測定で観測した0.9 GPaと1.8 GPaの構造相転移に対応しており、Ⅰ相からⅡ相 (0.9 GPa)はtrigonal (R3̅m)からmonoclinic (C2/m)への構造相転移、Ⅱ相からⅢ相 (1.8 GPa) は等構造の相転移と考えられる。また1.8 GPaと3.5 GPaでMAの分子内振動モードの不連続な変化を確認した(図2)。1.8 GPaではMA分子が自由回転状態からいくつかの結晶軸方向に配向した状態への変化、3.6 GPaではMA分子がさらに限定した配向方向をとるようになった変化を示唆した。Cs2KBiCl6の高圧下ラマン散乱測定では、0.6 GPaでKCl6とBiCl6八面体由来の振動モードの不連続な変化を確認した。この結果は、高圧粉末X線回折測定で観測した0.6 GPaでのcubic (Fm3̅m)からmonoclinic (C2/m)への構造相転移に対応している。以上のことから、(MA)2KBiCl6とCs2KBiCl6を比較することで、0.9 GPa付近でAサイトに依らないKCl6とBiCl6八面体の結合長や連結角の不連続な変化を伴う構造相転移、1.8 GPa付近でMA分子の回転・配向状態の変化によって誘起される構造相転移が生じていると考えられる。(MA)2KBiCl6とCs2KBiCl6では、常圧相の構造は異なるが高圧相では同じ空間群の構造となることがわかった。
 Cs2AgSbCl6の高圧ラマン散乱測定では、5.0 GPa付近で複数のラマンピークがブロードとなり、その圧力でラマンピークの不連続な振動数変化と新たなピークの出現を観測した。この変化は、高圧粉末X線回折測定で観測した構造相転移(対称性が低下した結晶格子を基本構造とする変調構造の出現)に対応していると考えられる。また、局所歪みに由来するラマンピークは1.0 GPaまでの低圧域で観測されたが、1.0 GPa以上の高圧域では消失し、圧力印加によって結晶内の局所歪みが緩和されることがわかった。Ag-Cl結合長に関しては約1.3 GPaまで単調に減少し、約2 GPa以上ではあまり変化しなかった。一方、Sb-Cl結合長に関しては、Ag-Cl結合長とは逆に、約1.3 GPaまではあまり変化せず、約2 GPa以上では大きく減少した。AgCl6八面体の収縮に伴って結晶内の局所的な構造歪みが緩和されると考えられる。
 n-i-p構造のPb系PSCでは、SnO2表面における酸素空孔の多さや、SnO2の伝導帯(CB)のエネルギーレベルが深いことに起因し、開放電圧(VOC)の損失が発生することが課題となっていた。本研究では、Ceドープにより、SnO2のCB最小値がペロブスカイトのCBに近づき、また表面欠陥が効果的に修復されることで、電子輸送速度が向上した。その結果、Ce-SnO2をETLに用いた面積0.09 cm2のPSCでは、従来のSnO2をETLに用いたPSC(PCE: 21 %)と比較して約100 mVのVOC向上とヒステリシスの低減を達成し、23.0 %のPCEを実現した。さらに、大面積(1.0 cm2)PSCにおいてもPCEが22.9 %に達した。加えて、ペロブスカイト層上部表面に2-phenethylamine hydroiodide(PEAI)による後処理を施すことで、0.09 cm2のPSCのVOCを 1.19 Vまで向上させ、最終的に23.3 %のPCEを実現した。さらに、無封止のCe-SnO2のETLを用いたPSCでは、室温(23~25  ℃)、相対湿度(40~50 %)の環境下において200時間以上にわたり初期PCEの90 %以上を維持する優れた安定性を実現した。
 HTLとして2TNATAを用いたp-i-n 構造のPb系PSCでは、2TNATA の最高被占軌道(HOMO)エネルギーレベルがペロブスカイト層の価電子帯(VB)と適合し、さらに溶媒エッチング法によってペロブスカイト層の結晶性および形態を向上させることができることを見出した。キャリア輸送特性においても、従来のPTAA(poly[bis(4-phenyl)(2,4,6-trimethylphenyl)amine])およびPEDOT:PSS に比べて優れた特性を示した。その結果、2TNATAをHTLに用いた面積0.09 cm2のPSCで20.58 %のPCEを達成し、PTAAを HTLに用いたPSC(19.36 %)およびPEDOT:PSSをHTLに用いたPSC(14.35 %)を上回る性能を得た。さらに、大面積(1.0 cm2)のPSC においても、PCEが20.04 %に達成した。これらの結果から、2TNATAはPTAAおよびPEDOT:PSSに代わる低コストかつ高効率なHTL材料として有望であることを見出した。

図・表・数式 / Figures, Tables and Equations


図1 MA2KBiCl6の加圧過程のラマン散乱スペクトル(120 cm-1~380 cm-1



図2 MA2KBiCl6の加圧過程のラマン散乱スペクトル(2750 cm-1~3350 cm-1


その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)


成果発表・成果利用 / Publication and Patents

論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
  1. Shamim Ahmmed, Ce-Doped SnO2 Electron Transport Layer for Minimizing Open Circuit Voltage Loss in Lead Perovskite Solar Cells, ACS Applied Materials & Interfaces, 16, 32282-32290(2024).
    DOI: 10.1021/acsami.4c05180
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
  1. Shamim Ahmmed, He Yulu, Md. Emrul Kayesh, Md. Abdul Karim, Kiyoto Matsuishi, Ashraful Islam, “Modification of SnO2 Electron Transport Layer to Suppress the Open Circuit Voltage Loss of the Perovskite Solar Cells”, International Photovoltaic Science and Engineering Conference (PVSEC-35), Numazu, Japan, (10-15th November 2024).
  2. 新鞍健也,松石清人,中野智志,“有機無機複合系ダブルペロブスカイト半導体の高圧下の構造及び光物性”,第65回高圧討論会(盛岡),令和6年11月14日.
  3. 高原直暉,松石清人,中野智志,“Cs₂AgSbCl₆の圧力誘起構造相転移”,第65回高圧討論会(盛岡),令和6年11月14日.
特許 / Patents

特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件

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