【公開日:2025.06.10】【最終更新日:2025.05.19】
課題データ / Project Data
課題番号 / Project Issue Number
24HK0053
利用課題名 / Title
液相合成した機能性材料の構造及び組成解析
利用した実施機関 / Support Institute
北海道大学 / Hokkaido Univ.
機関外・機関内の利用 / External or Internal Use
内部利用(ARIM事業参画者以外)/Internal Use (by non ARIM members)
技術領域 / Technology Area
【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)計測・分析/Advanced Characterization(副 / Sub)-
【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)量子・電子制御により革新的な機能を発現するマテリアル/Materials using quantum and electronic control to perform innovative functions(副 / Sub)-
キーワード / Keywords
表面・界面・粒界制御/ Surface/interface/grain boundary control,電子顕微鏡/ Electronic microscope
利用者と利用形態 / User and Support Type
利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)
北野 翔
所属名 / Affiliation
北海道大学 大学院工学研究院
共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes
ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes
大多 亮
利用形態 / Support Type
(主 / Main)機器利用/Equipment Utilization(副 / Sub),技術代行/Technology Substitution
利用した主な設備 / Equipment Used in This Project
報告書データ / Report
概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)
再生可能エネルギー技術の中でも,水電解はクリーンな水素製造法として有望であることから,高活性触媒の開発が求められている.近年,金属硫化物,リン化物,窒化物などの化合物が水素発生反応(HER)において高い活性を示すことが報告されている.これらの触媒材料において,従来は活性サイトである金属種のみが活性を決定すると考えられていたが,触媒を構成する典型元素も吸着サイトとして反応に寄与することが明らかになってきた.他方,複合材料におけるヘテロ界面が,高活性触媒開発の新たなアプローチとして注目されている.ヘテロ構造により,単一材料では実現できない様々な特性を創出することが可能となる.層状材料であるWS2やMoS2は,硫黄を含むヘテロ界面の形成に適しており,新たなヘテロ構造を有する複合触媒の開発が期待される.本研究では,硫黄元素の特性に着目し,WS₂単層ナノシートとIrクラスターを組み合わせた複合触媒を合成すると共にHERへの適用を行った.IrクラスターとWS2界面に生成したチオ硫酸種がHER活性に与える影響を,日本電子製JEM-ARM200Fにより解析した.
実験 / Experimental
既報に従って,WS2をワンポット加熱法により合成した1.Irクラスターは,IrCl3・3H2O をエチレングリコール/H2O 混合溶媒中において,140℃ で液相還元することにより分散液の状態で合成した.得られたWS2粉末をアセチルアセトンに分散させてIrクラスター分散液と混合した後,純水を加えることでIrクラスターとWS2を複合した触媒(Ir/WS2)を合成した.また,比較のために同様の手法にてIrクラスターを市販のグラフェンと複合した触媒(Ir/G)を合成した.試料をグラッシーカーボン回転電極上に塗布,乾燥させて作用電極とし,Ar飽和の0.5 mol dm-3 H2SO4水溶液(酸性),1.0 mol dm-3 リン酸緩衝水溶液(中性)および1.0 mol dm-3 KOH水溶液(アルカリ性)を用いてリニアスイープボルタメトリーによりHER活性評価を行った.参照電極にはAg/AgCl電極およびHg/HgO電極,対極にはPt線を用いた.
結果と考察 / Results and Discussion
STEM観察より,Ir/WS2は単層WS2ナノシート上にIrナノ粒子が高分散に担持された複合触媒であることが明らかになった.XAFS測定より,構成元素の価数はIrが0価,Wが4価であることがわかった.S K端スペクトルでは,S2-のピークに加えてS6+のピークが見られ,部分的にチオ硫酸種が生じていることが明らかになった.合成した触媒をHERに適用したところ,いずれの液性においてもWS2単独ではほぼ活性がみられなかったのに対し,Ir/WS2は良好な活性を示したことから,Ir/WS2の活性サイトはIrクラスターであると考えられる.Ir/Gと活性を比較すると,酸性条件においてIr/WS2はIr/Gとほぼ同様の活性を示したのに対し,中性およびアルカリ性条件下においてはIr/WS2が遥かに高い活性を示した.H+が基質である酸性HERとは異なり,中性およびアルカリ性HERにおいてはH2Oが基質であることから,Ir/WS2においてOH結合の解離が促進されたと考えられる.Ir/WS2のin-situ XAFS測定を行ったところ,-0.05 V vs RHE においてIr L 3端, W L3端のスペクトルは低エネルギー側にシフトしたことから,HER中のIr, Wは還元的な電子状態に変化していることがわかった.一方で,S K端のスペクトルにおいては,OCP条件と比較すると-0.05 V vs RHE においてS2-ピーク強度の減少とS6+ピーク強度の増加が見られ,反応後はピーク強度が戻ることがわかった(Fig. 1).この結果は,HERの卑な電位印加条件にも関わらず,チオ硫酸種の電子状態が酸化的に変化したことを示しており,H₂Oに電子が引き寄せられていることを示唆している.すなわち,チオ硫酸種のS⁶⁺とH₂OのO,およびIrクラスターとH₂OのHの相互作用によってO-H結合の解離が促進され,Ir/WS2の優れたHER活性が発現したと考えられる.
図・表・数式 / Figures, Tables and Equations
その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)
成果発表・成果利用 / Publication and Patents
論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
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Sho Kitano, Thiosulfate species promoting hydrogen evolution reaction at the heterointerface of Ir clusters-loaded WS2 nanosheets, Chemical Communications, 61, 5114-5117(2025).
DOI: 10.1039/D4CC06122E
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
特許 / Patents
特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件