【公開日:2025.06.10】【最終更新日:2025.03.23】
課題データ / Project Data
課題番号 / Project Issue Number
24UE5377
利用課題名 / Title
メカノケミカル合成実験におけるボール表面のコーティング状態の観察
利用した実施機関 / Support Institute
電気通信大学 / UEC
機関外・機関内の利用 / External or Internal Use
外部利用/External Use
技術領域 / Technology Area
【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)物質・材料合成プロセス/Molecule & Material Synthesis(副 / Sub)-
【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)次世代ナノスケールマテリアル/Next-generation nanoscale materials(副 / Sub)高度なデバイス機能の発現を可能とするマテリアル/Materials allowing high-level device functions to be performed
キーワード / Keywords
利用者と利用形態 / User and Support Type
利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)
茅原 弘毅
所属名 / Affiliation
大阪産業大学 デザイン工学部環境理工学科
共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes
木村 誠二
ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes
利用形態 / Support Type
(主 / Main)機器利用/Equipment Utilization(副 / Sub),共同研究/Joint Research
利用した主な設備 / Equipment Used in This Project
報告書データ / Report
概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)
天文学で観測されたシリケートの物理的・化学的特性の解明を目的として実験室で種々のシリケートを合成し、その物質構造の評価とスペクトル測定を行ってきた。現在、その合成方法として遊星ボールミルを用いたメカノケミカル法を採用してシリケートの作製を行っている[1]。この方法では合成したいシリケート組成になるようにMgO微結晶と非晶質SiO2粒子を容器に入れて一定時間ボールミルを回すことで非晶質シリケートを作製することができる。しかし合成に成功する場合とコンタミネーション(コンタミ)が付着して失敗する場合とがあり、生成物のコントロールが難しいのが現状である。コンタミはボールやカプセル表面に生じたコーティング物質の状態が関係していると考えているが、これまで表面状態が観察できなかったため原因の特定には至っていない。そこで本研究課題では試料作製の成否の原因を調べるために、走査型電子顕微鏡(SU5000)を利用して成功した場合と失敗した場合のボール表面の観察を行った。
実験 / Experimental
10mmの球状試料をSEM試料台に固定するために、高さ10mmのアルミ材にφ10の孔を作製し、その中に2種類の窒化珪素ボール、(1)コンタミが発生せずに合成に成功したボールと(2)コンタミが発生して失敗したボールを入れ、SEM用カーボン両面テープで貼り付けて観察試料とした。それらをSU5000を利用して加速電圧3kV、作動距離10mmで二次電子(Secondary Electron: SE)像と反射電子(BackScattered Electron: BSE)像によって観察した。
結果と考察 / Results and Discussion
2種類の窒化ケイ素ボール表面の違いがよくわかる低倍率のSE像およびBSE像を図 1に示す。図1(a)の成功したボール表面には矢印で示したような塊が一部存在するが多くは平坦な部分であるのに対し、図1(c)の失敗したボール表面には多くの大きな粒子が見られ、2つのボール表面のSE像は明確に異なっていた。加えて観察時の違いとして、失敗したボールでは多少チャージアップの影響が見られる傾向も認められた。一方、BSE像の(b)において塊部分は灰色で平坦な部分は白色っぽく見えるのに対して、(d)では多くの粒子状部分が灰色で、矢印で示した白い部分はわずかに存在するだけだった。BSE像では物質の違いでコントラストが変化するため、色が違って見えるのは物質の状態が違っていることを示唆している。
そこで本年度は低倍率で確認された2つの特徴的な箇所、一つは成功したボールの平坦な部分で、もう一つが失敗したボールの粒子状部分の観察を行った(図2)。図2(a)のSE像では粒子と平坦な部分が見られ、その一部を拡大した(b)の結果では平坦な部分にも小さな粒子が付いていることが確認できる。また平坦な部分には波を打ったような模様が形成され、膜状でコーティングされているように見える。一方、図2(c)では多くの粒子が堆積していることを示し、その拡大像(d)ではさらに粒子表面に小さな粒子が付着していることがわかる。そのような粒子のBSE像を図3に示す。この像を見る限り粒子表面にも小さな白い粒子が確認できることから、これが図2(d)で見られた小さな粒子に対応していると考えられる。BSE像におけるコントラストの違いを考慮すると、粒子表面に付着している小さな粒子は物質構造が大きな粒子とは異なり、これらがコンタミの原因になっている可能性が考えられる。しかし現在のところ、この小さな粒子群の素性は特定できていない。
本年度の結果として、成功したボール表面には広範囲にコーティングされたような部分が形成されているのに対して、失敗したボール表面には低倍でも確認できるような粒子が見られ、さらにその粒子表面にも小さな粒子が多数付着しているということがわかった。コーティングの存在は想定した通りの結果で、そのコーティングの有無がコンタミの発生を抑制して、試料作製の成否に関係している可能性がある。加えて、失敗したボール表面には低倍率でも観察される粒子状物質が存在し、さらにその表面にも小さな粒子が付着しており、これは成功したボール表面とは異なる傾向である。成功したボールおよび失敗したボールに付着した粒子のEDS分析を行えば、もしかしたら粒子の一部組成が異なるなどの結果が得られコンタミが判明する可能性もあるが、本SU5000にはEDS検出器が未搭載のため今後必要に応じて検討したい。
図・表・数式 / Figures, Tables and Equations
図1. 合成に成功した窒化珪素ボール表面の(a)SE像と(b)BSE像、および合成時にコンタミが発生して失敗した窒化珪素ボール表面の(c)SE像と(d)BSE像。
図2. 2種類のボール表面で見られた特徴的な部分のSE像。(a)成功したボール表面の平坦な部分と(b)線で示した箇所を拡大した像、および(c)失敗したボール表面の粒子部分と(d)線で示した箇所の拡大像。
図3. 失敗したボール表面の粒子部分を拡大したBSE像。
その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)
[1] C. Koike and H. Chihara, Astrophys. J. 951:24 (17pp). 2023.
成果発表・成果利用 / Publication and Patents
論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
特許 / Patents
特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件