【公開日:2025.06.10】【最終更新日:2025.04.27】
課題データ / Project Data
課題番号 / Project Issue Number
24KU2002
利用課題名 / Title
ナノ粒子半導体の構造の調査
利用した実施機関 / Support Institute
九州大学 / Kyushu Univ.
機関外・機関内の利用 / External or Internal Use
外部利用/External Use
技術領域 / Technology Area
【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)計測・分析/Advanced Characterization(副 / Sub)物質・材料合成プロセス/Molecule & Material Synthesis
【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)次世代ナノスケールマテリアル/Next-generation nanoscale materials(副 / Sub)量子・電子制御により革新的な機能を発現するマテリアル/Materials using quantum and electronic control to perform innovative functions
キーワード / Keywords
量子効果/ Quantum effect,ナノ粒子/ Nanoparticles,電子顕微鏡/ Electronic microscope
利用者と利用形態 / User and Support Type
利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)
宮永 昭治
所属名 / Affiliation
TOPPAN株式会社
共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes
吉原 麗子
ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes
福永 裕美,尾中 晃生,鳥山 誉亮,工藤 昌輝,梶原 隆司
利用形態 / Support Type
(主 / Main)技術補助/Technical Assistance(副 / Sub)-
利用した主な設備 / Equipment Used in This Project
KU-002:収差補正走査/透過電子顕微鏡
KU-004:広電圧超高感度原子分解能電子顕微鏡
KU-006:直交型FIB-SEM
KU-018:イオンビーム・電子ビーム複合型精密加工分析装置
KU-501:電子状態測定システム
報告書データ / Report
概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)
ナノ粒子半導体である量子ドット(QD)は、粒径で発光波長を制御できるというバルクとは異なる新機能を有することが特徴の一つである。QDを蛍光体として用いる場合には、その特性や信頼性を向上させる為にコア・シェル構造を形成することが有効である。コア結晶材料とシェル結晶材料のバンドのエネルギー準位によって、図1の様な4つのTypeに分類される。Type I構造を形成すると、コア内にエキシトンを閉じ込めることにより発光特性や信頼性が向上する。コア・シェル構造を形成させることは有効であるが、コアとシェルの界面に結晶欠陥を生じない様にすることが重要である。コア上にシェルを欠陥を生じさせないようにヘテロエピタキシャル結晶成長させる為には、結晶構造とその格子定数が決め手となる。コアとシェルの格子不整合率が大きい場合には、コアとシェルの間にバッファー層となる結晶を形成させることも一手段である。いずれにしろ、コアやシェルの格子定数を正しく知ることが、QD合成の戦略上で大変重要である。
結晶情報取得を目指し、これまでに比較的単純な閃亜鉛鉱型構造(2元素系、立方晶)を有するZnSeナノ粒子の高分解能電子顕微鏡観察および格子定数算出を実施した[1]。本報告では同手法を用いて、より複雑なカルコパイライト型構造(4元素系、正方晶)が想定されている(Ag,Cu)GaSe2ナノ粒子の結晶情報の取得と考察を行った。
実験 / Experimental
九州大学超顕微解析研究センターのご協力を得て、同センター所有の収差補正電子顕微鏡(JEM-ARM200CF)を用いて、カルコパイライト型構造(Ag,Cu)GaSe2ナノ粒子の高分解能電子顕微鏡観察を実施した。図2にカルコパイライト型構造を示すが、閃亜鉛鉱型構造のⅡ族のカチオンサイトがⅠ族とⅢ族になるので、c軸方向に閃亜鉛鉱型構造の2倍格子となっている。詳細は以下の通りである。
(1)結晶構造推定
①複数の粒子について制限視野電子回折
->リングパターンにより解析を実施
②1個の粒子について、原子分解能像観察
->実像とFFTパターンにより結晶構造を推定
(2)格子定数算出
③複数の粒子について制限視野電子回折
->リングパターンにより算出
④1個の粒子について原子分解能像観察
->FFTパターンより算出
(3)積層欠陥などの観察
⑤1個の粒子について原子分解能像観察
結果と考察 / Results and Discussion
【結果】
結果(1)-①
図3に示す様な複数の粒子について制限視野に対して、電子線回折を実施し得られたリングパターン(図4)から面間隔を算出した。電子回折の結果より算出した面間隔の結果は、ICDD(カルコパイライト型構造AgGaSe2)データベースの面間隔といい一致を示した(表1)。
結果(1)-②
(Ag,Cu)GaSe2ナノ粒子では、高分解能像を撮影する際の電子線照射による粒子損傷への影響が大きく、電子線照射を続けると粒子が損傷し結晶方位が変化してしまった。その為、粒子を傾斜させて晶帯軸を合わせて原子分解能像を撮影することができなかった。そこで、沢山の粒子を観察して、特定の方位を向いているような粒子を探して撮影することにより、図5と図7に示すような原子分解能像を撮影した。各像から得られたそれぞれ図6と図8にFFTパターンでは、不明なスポットも多くみられているが、主要なスポットはカルコパイライト型構造AgGaSe2のパターンと一致していた。
結果(2)-③
(1)-①の解析結果より、(112)、(220)、(204)、(312)の面間隔を用いて、面間隔の関係((1)式)から格子定数を算出した。格子定数算出結果は、a=0.60[nm]、c=1.09
[nm]
結果(2)-④
図5の原子分解能像のFFTパターン(図9)から格子定数を算出した(表2)。
図10の原子分解能像のFFTパターン(図11)から格子定数を算出した(表3)。
図7の原子分解能像のFFTパターン(図12)から格子定数を算出した(表4)。
結果(3)
図10の原子分解能像を観察するとナノ粒子内部には、積層欠陥が存在することがある(図13の黄色破線箇所)。 結晶面を選ぶと図14で見られるように、Ag, Ga, Seのサイトを区別可能な原子配列像が観測された。
【考察とまとめ】
(Ag,Cu)GaSe2ナノ粒子は、制限視野電子回折によるリングパターン解析結果、および原子分解能像と、そのFFTパターンよりカルコパイライト型結晶構造であると推定された。(Ag,Cu)GaSe2コアについて、制限視野電子回折によるリングパターン解析結果、および原子分解能像および、そのFFTパターンより格子定数を求めた結果、バルク結晶の時のカルコパイライト型結晶構造AgGaSe2の格子定数0.5993[nm]、1.0884[nm]と近い値をとっていることが示唆された。
(Ag,Cu)GaSe2コアでは、高分解能像を撮影する際の電子線照射による粒子損傷への 影響が大きかったが、良好な原子分解能像が取得でき以下の情報を得ることができた。
(1)(Ag,Cu)GaSe2ナノ粒子は、制限視野電子回折によるリングパターン解析により、バルク結晶の時のカルコパイライト型AgGaSe2同様の結晶構造を持ち、格子定数についても、バルク結晶の時の格子定数0.5993[nm]、1.0884[nm]と近い値をとっていることが分かった。
(2)原子分解能像、FFTパターン解析からも、バルク結晶時のカルコパイライト型AgGaSe2同様の結晶構造を持ち、格子定数についても、バルク結晶の時の格子定数と近い値をとっていることが示唆された。
(3)原子分解能像撮影では、積層欠陥や、カルコパイライト型構造のAg、Ga、Seの配列と予想される原子配列が観察された。
図・表・数式 / Figures, Tables and Equations
図1 コア・シェル構造をもつQDの4タイプ(type) ↕はバンドギャップ、ECBは伝導帯下端のエネルギー準位、EVBは価電子帯上端のエネルギー準位
図2 カルコパイライト型構造の概念図
図3 制限視野(丸枠内を電子回折)
図4 制限視野電子回折
表1 電子回折より算出した面間隔の結果とICDD(カルコパイライト型構造AgGaSe2)データベース情報
図5 (左)(Ag,Cu)GaSe2ナノ粒子の原子分解能像、(右)カルコパイライト型構造(001)模式図
図6 (左)図5(左)赤枠のFFTパターン、(右)カルコパイライト型構造(001)の電子線回折パターン模式図
図7 (左)(Ag,Cu)GaSe2ナノ粒子の原子分解能像、(右)カルコパイライト型構造(100)模式図
図8 (左)図7(左)赤枠のFFTパターン、(右)カルコパイライト型構造(100)の電子線回折パターン模式図
式(1) 面間隔の関係式
図9 図5原子分解能像のFFTパターン
表2 図9より算出した格子定数
図10 (左)(Ag,Cu)GaSe2ナノ粒子の原子分解能像、(右)カルコパイライト型構造(110)模式図
図11 図10原子分解能像のFFTパターン
表3 図11より算出した格子定数
図12 図7原子分解能像のFFTパターン
表4 図12より算出した格子定数
図13 図10原子分解能像に積層欠陥箇所を記載
図14 図7原子分解能像の拡大像
その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)
【謝辞】
本研究の一部は九州大学超顕微解析研究センターマテリアル先端リサーチインフラ
事業の支援を受けて実施されました。九州大学超顕微解析研究センターの鳥山誉亮様、福永裕美様、山本知一先生の電子顕微鏡の操作と結晶構造解析手法のご教授に深く感謝いたします。
【参考文献】
[1]ARIM User's Reports 23KU2002
[2]Seto, Y. & Ohtsuka, M. (2022). J. Appl. Cryst. 55. https://doi.org/10.1107/S1600576722000139.
成果発表・成果利用 / Publication and Patents
論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
特許 / Patents
特許出願件数 / Number of Patent Applications:1件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件